研究課題/領域番号 |
20K13321
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
城野 一憲 鹿児島大学, 法文教育学域教育学系, 講師 (10707491)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 憲法学 / 教育法学 / アメリカ憲法 / 教育についての権利 |
研究実績の概要 |
本研究の主題は、アメリカにおける“Right to Education”に関する立法や判例、学説の比較法研究を通じて、現代社会における「教育についての権利」の規範構造を明らかにすることにある。 2020年度は、文献や判例の調査を通じて、アメリカ憲法学における「教育についての権利」の基本的権利としての性質に関する議論を整理・分析した。これらの分析によって、アメリカでは、学校財政訴訟の遂行や検討を通じて、基本的権利としての“Right to Education”の観念が論じられていることが明らかになった。また、連邦憲法上の“Right to Education”の概念をめぐっては、基本的権利性を否定した連邦最高裁の1973年のRodriguez判決以降も、学説や権利擁護運動の文脈では盛んな議論が継続しており、こうした議論状況を整理したDerek Blackは、①平等保護の理論、②実体的デュー・プロセスの理論、③最低限度のアデクアシーを満たす教育の理論、④ハイブリッドな理論、⑤原意主義の理論があることを指摘している。原意主義に基づくプロセス的な権利観を提示するBlackと、より実体的な権利観を構想するJoshua Weishartの間では、“Right to Education”についての論争もなされている。 研究計画書では、日本における社会経済的地位や居住地域による教育格差の拡大も指摘していたところ、新型コロナウイルス対策の一環として「一斉休校」が実施され、教育機会の減少や、学校教育の水準の引き下げ、居住地域や家庭環境による教育の不平等の問題が顕在化した。この点について、平等とアデクアシーに関する比較法上の知見をもとに、緊急事態下における教育法学の課題についての論文を日本教育法学会の年報に投稿・公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度である2020年度は、判例や文献の収集と分析については、概ね当初の研究計画の通りに進めることができた。一方で、新型コロナウイルス対策のための業務量の増加や、所属研究機関の変更、学会・研究会等の開催・参加の困難などのため、上記の分析で得られた研究成果のアウトプットは十分に行うことができなかった。2020年6月に予定されていた日本教育法学会の総会企画における報告が中止になったことも、本研究に関する意見交換の機会を減少させた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の次年度にあたる2021年度は、「教育についての権利」の司法による救済の論点を分析する。特に、学校財政訴訟に直面した裁判所が用いる司法審査基準や、司法的な救済の手法について、文献や判例の調査を通じて明らかにする。 また、当初の予定よりも遅れている研究成果のアウトプットについては、初年度に得られた知見をまとめ、所属する研究機関や学会誌への論文投稿を積極的に行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、学会・研究会等が不開催やオンライン開催となったことの他、所属研究機関における県境を越えた移動を制限するルールを遵守したことで、旅費の使用が困難であったため、次年度使用額が生じた。次年度は、感染対策を講じつつ研究会への参加や資料調査を行う予定である。
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