研究課題/領域番号 |
20K13322
|
研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
江藤 祥平 上智大学, 法学部, 准教授 (90609124)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 憲法 / 立憲主義 / 象徴 |
研究実績の概要 |
初年度は、近代日本における天皇制の意義を探究し、天皇を象徴とすることの意義について、従来の議論の動向を多角的にフォローすることに注力した。象徴天皇制は戦後憲法の産物であるが、天皇と象徴の結びつきを語るには、やはり明治以降の天皇の国家における位置づけを抜きにしては語れない。そこで、戦前の憲法学における上杉慎吉の皇道論と美濃部達吉の天皇機関説との対比を通じて、両者の議論の前提がいかなるもので、それがいかなる差異を生み出しているかを検討した。また、一括りに戦前日本は天皇制国家と位置づけられがちであるが、明治天皇の死が一つの契機となって、天皇制の意味合いが大きく変質していること、そこに日本の宗教論がどのように関わっているかについて探究した。他方、戦後の立憲学派の代表として知られる樋口陽一の憲法学における天皇制の位置づけを、樋口の主権論などを通じて検討した。その結果、樋口の理論的前提にはマルクスとウェーバーの方法論が複雑に絡み合いながら、天皇制が前近代的なものと位置付けられていることが明らかになった。しかし他方で、その天皇制が戦後日本国憲法の平和主義や立憲主義の中核となって、憲法的価値を支えているという逆説も明らかになってきた。もっとも、この後者の点については事実がそうであるというだけで、規範的評価の問題としては、なお立憲主義とは鋭い緊張関係に立つ可能性があること、その両立可能性については戦前の宗教論とは違う別個の理論的支柱を必要としていることが明らかになった。最後に、今般の新型コロナウィルスの関係で「匿名の権力」という論文を公表したが、そこでは日本型の今日の権力構造のあり方が、戦前の天皇制を中心とする国家のあり方と、構造上はなお類似していることが明らかになった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度は、新型コロナウィルスの蔓延により、予定していた出張も叶わず、文献調査などの面では遅れをとる結果となった。その結果、予定していた和辻文庫の調査などを実施することができなかった。他方、従来の議論をフォローすることに多くの時間を費やし、今後の研究の前提をしっかりと固めることができた。特に、憲法学分野に限らず、政治学や宗教学などの幅広い知見を取り込むことができたことは、本研究のねらいとする「象徴」概念の意義を明らかにする上で、有益な示唆となることと思う。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度で実施予定であった和辻文庫の調査を、本年度は実施できればと思う。また同時に、当初の予定にある象徴と統合作用の関係についても、文献調査や歴史研究を踏まえて、明らかにしていきたいと思う。また、初年度は研究成果の公表が数件にとどまり、必ずしも成果をすべて形にするには至らなかったことから、本年度は、研究会での発表や紀要での公表などを通じて、積極的に研究成果を発信できる年にしていければと思う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
予定していた出張が全てキャンセルされたことに加えて、在宅勤務が増えて物品購入の機会などが制限されたために、当初の予定通りに研究費の執行をするには至らなかった。その結果、本年度は予定していた文献調査を実施するなどして、出張費などで大幅な支出が必要となることが見込まれる。
|