研究課題/領域番号 |
20K13322
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
江藤 祥平 一橋大学, 大学院法学研究科, 准教授 (90609124)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 憲法 / 立憲主義 / 象徴天皇制 |
研究実績の概要 |
研究の2年目に当たる2021年度は、象徴と統合作用に関する各論的研究を中心に展開した。その中でも特筆すべきは、一見象徴とは無関係に見える現代的な諸課題においても、この問題が背後に潜んでいることを明らかにした点である。 その一つが、論文「もう一つの象徴」(上智法学論集2022年6月公刊予定)である。同論文で注目したのは、近年各地方自治体が資源ごみの持ち去りを条例で禁止しているという事態である。資源ごみを含む一般廃棄物の回収は地方自治体の責務であり、その持ち去りを禁止することには必要性・合理性が認められるが、アルミ缶集めを生業とするホームレスの人々の生活を圧迫することから、それにまつわる憲法問題を同論文は論じている。同論文が従来の議論と大きく異なるのは、憲法1条の「国民の総意」のうちに天皇制とは別の「もう一つの象徴」の可能性を見出している点にある。同論文はこのことを「場所」「非場所」という存在論的な概念を用いて分析している。天皇という日本国において絶対的な位置を占める存在と、ホームレスという法秩序の中に居場所を持たない人々という著しいまでの非対称が、立憲主義と象徴をめぐる議論に対する新たな視角を提供している。そして、この非対称を別の形で炙り出したのが、論文「生の政治と身体の自由」(学術の動向2022年3月号)である。同論文は、新型コロナウィルス禍において生じる憲法問題を、フーコーの生政治の概念を軸に分析したものである。同論文の特徴は、この近代的な産物である生政治が日本の文脈では「聖なるもの」と「穢れ」という日本中世以来の概念に裏付けられており、それが今般のコロナ禍における差別問題にも表れているという点である。 象徴と統合作用を論じる上で天皇制そのものを論じることは必須であるが、あえて対称的な概念に着目することで、その本質の一端を明らかにすることが出来たのではないかと思う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の2年目に当たる2021年度は、コロナ禍の影響で移動が大幅に制限されたことで、予定していた文献調査を昨年度に引き続き十分に実施することが出来なかった。他方、そのコロナ禍に起きた憲法問題を考察する中で、社会的権力による差別の問題に関心を持ち、日本の公衆衛生上の問題が、中世の「聖なるもの」と「穢れ」という関係と結びついている可能性に自覚的となったことで、当初の想定とは異なる形ではあるが、研究を大きく前に進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、当初予定していた総論的検討が先送りになる反面で、各論的検討が先行している。総論は各論に本来先立つべきものであるが、本研究の課題に関する限り、各論的検討が先行したことは、問題の多角性を照射することにもつながり、かえって研究の視野を広げたということができる。もっとも、各論は総論へと昇華しないことにはその真価は発揮されないのであって、今後の研究は当初の予定通り総論的検討を行う予定である。これには象徴概念の意義をめぐる古典的な議論の検討から、国家有機体論における人格概念の検討が含まれる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として、文献調査や研究成果公表のため計上していた出張が、新型コロナウィルス蔓延を理由に断念せざるを得なかったことが挙げられる。また海外での文献調査を行うことができておらず、そのための予算もいまだ執行できずにいる。 次年度使用額は、2022年度助成金とあわせて、国内文献調査・研究成果公表・海外文献調査のための旅費をはじめとする諸費用に使用する予定である。
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