研究課題/領域番号 |
20K13323
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
高橋 正明 帝京大学, 法学部, 講師 (50757078)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 憲法学 / 比較憲法学 / 契約の自由 / 締約強制 / 契約規制 / 自己決定権 |
研究実績の概要 |
現代においては、国家の介入を否定する消極的意味での契約自由の原則が貫徹されているというよりも、契約当事者(事業者と消費者など)の交渉力の構造的格差などを根拠として契約規制の必要性が説かれることが多い。それに伴い、契約理論も国家による積極的規律を前提としたものへと変容しつつあるが、本研究は、こうした契約法の現代的展開を踏まえ、主にアメリカ及びドイツの議論を参照しつつ、憲法上の契約の自由(以下「契約自由」という。)の意味内容及びその法規範性について考察を行うものである。 本年度は、こうした検討の前提作業として、まずは、契約規制のあり方に関する国内外の議論状況について基本的調査を行った。その結果、①消費者契約法のように契約当事者の交渉力格差を前提とした契約規制は、消費者の自己決定権の保護・拡充という点から基礎づけられる一方で、②水道法などに見られる、公共的な財・サービスに関する契約規制(締約強制)に関しては生活利益の平等な分配を担保するものとして位置付けられ、当事者の意思決定はむしろ広く制約されることが明らかとなった。このような整理から、契約自由の妥当根拠も合意・自己決定権といった観点のみから基礎づけられるのではなく、規制領域に応じて、妥当根拠や司法的統制のあり方も異なりうるとの知見を得ることができた。 また、オンライン取引を利用して国内外の文献収集を行うことに加えて、「契約と平等」研究会(甲南大学篠原永明准教授主宰)において、上記②の契約規制に関する論点として、公共的な財・サービスを提供する私人による差別的な契約拒否に関する問題について報告し、公法・私法領域横断的な観点から意見交換を行った。さらに、私人間効力論に関する論文を執筆し、雇用契約に関する本採用拒否の有効性を審査した三菱樹脂事件最高裁判決の再検討を行い、本判決にも当事者の力関係の相違への配慮が見られると指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
内容面については、契約規制の現状に関する基礎的調査を通じて、契約自由の妥当根拠と規制領域に応じた司法的統制のあり方について、今後、さらに検討するための基礎を構築できたと思われる。しかしながら、コロナウィルス感染症の世界的流行に伴い、海外での資料収集や意見交換を実施できない状況下に置かれ、海外の文献の収集・読解がやや不十分であり、海外の議論状況についてより踏み込んだ検討ができていないため、「やや遅れている」との評価を行った。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果を踏まえ、応用的文献の収集・読解や国内外の研究者との意見交換を通じて、規制領域に応じた契約自由の妥当根拠とその司法的統制のあり方についてさらに検討を深めたい。もっとも、海外での資料収集や意見交換の実施可能性については、今後も、コロナウィルス感染症の流行の程度に左右されることが予想されるため、海外の書店とのオンライン取引も含め、国内を拠点とした効果的な文献収集を行っていくとともに、海外の研究者との意見交換についてもオンラインでの実施を検討することで対処したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルス感染症の世界的流行に伴い、海外調査(文献収集・意見交換)が実施できなくなり、その分の旅費を今年度に使用する必要がなくなったため。来年度に海外調査が可能である場合、次年度使用額は上記調査費用に充てられる。ただし、現地調査が困難である場合、次年度使用額は、当該調査を代替する、オンラインでの文献収集や意見交換にかかる費用(データベースの利用など)に充てられる。
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