研究課題/領域番号 |
20K13329
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
稲垣 治 神戸大学, 国際協力研究科, 部局研究員 (90772731)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 生態系アプローチ / 統合的管理 / 南極条約体制 / 北極評議会 |
研究実績の概要 |
令和3年度は、前年度の文献調査に基づいて、生態系アプローチに関する口頭報告を2つ行った。 1つ目は、生態系アプローチも含めて、生態系概念が国際法に対してどのような影響を与えているかについて検討する「国際法における生態系概念の浸透とその影響」と題する口頭報告である。その中で①生態系が国際法の保全対象となったことを示し、②①の手段としての生態系アプローチの要素には、生態系全体の考慮、統合的管理、科学的知見の重要性、そして生態系アプローチの目的として生態系の持続的利用であること、の4つが含まれることを示し、③これら要素の中からとりわけ統合的管理について、さらに分野間統合と区域間統合に区別したうえで、それぞれを実現するための具体的な条約規定や国際制度を位置づけた。 2つ目は、第14回極域法シンポジウムにおいて、私も含めた国際法研究者と自然科学研究者で「北極域における生態系アプローチの実施」と題する国際共同パネルの設置を主導し、その中で、「北極評議会による生態系アプローチの発展」と題する口頭報告を行った。この口頭報告は、北極評議会による生態系アプローチの発展とその限界を検討したけ結果、北極評議会は、生態系アプローチの概念的および科学的な側面については大きな貢献をしてきた一方で、生態系アプローチによる人間活動の規制については限定的な貢献しかしてこなかったことを明らかにした。なお本パネルは、日本の北極の自然科学者とノルウェー北極大学、ロシア・モスクワ国際関係大学の国際法研究者の国際共同研究であった点でも意義深い。 この2つの口頭報告の準備と質疑応答を通じて、生態系アプローチの理念がどのようなものかが明らかになるとともに、その理念を実現するための具体的な条約規定、国際制度について理解を深めることができ、最終年度令和4度に予定する論文執筆・公表のための基礎を着実に築くことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、2つの口頭研究報告を通じて、生態系アプローチに対する理解が深まり、翌年度の論文執筆・公表に向けて着実に準備することができたから。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる令和4年度は、令和3年度に行った口頭報告に基づき、生態系アプロ―チに関する研究論文を執筆・公表する。1つは、前述の口頭報告「国際法における生態系概念の浸透とその影響」を基礎として、国際法によってこれまで生態系アプローチの理念がどの程度実現したのか、またその限界は何なのかを検討する日本語論文を、所属先である神戸大学大学院国際協力研究科の紀要『国際協力論集』に公表する。またできる限り、前述の口頭報告「北極評議会による生態系アプローチの発展」を基礎として、北極評議会と生態系アプローチに関する英語論文を国際ジャーナルにも投稿したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度は、新型コロナウィルス感染症の影響で予定していた国内出張がキャンセルになったため、次年度使用額が生じた。次年度は、最新の学術成果をキャッチアップするための書籍費用、研究成果の公表のための国内旅費および海外旅費として使用する予定である。
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