最終年度となる2022年度は、昨年の口頭報告を踏まえて、公表論文の作成を中心に取り組んだ。その論文が、所属する大学院の紀要『国際協力論集』に公表した「国際法による生態系アプローチの実現:その現状と課題」と題する論文である。この論文では、国際規範としての生態系アプローチの構成要素の中から、とりわけ統合的管理という要素に焦点を当て、それをさらに事項的統合と区域間統合に分節した上で、それぞれどのような具体的な国際法の規則や制度で実現されているのかについて検討を行った。具体的には、事項的統合の実現手段として、累積的影響の評価義務、事項横断的海洋保護区、そして国連海洋法条約第192条を、また区域間統合の実現手段として、隣接する区域の措置の調整、越境保護区ネットワーク、そして国連海洋法条約第192条を検討対象とした。この論文では、一方で生態系アプローチという大きな座標軸に個々の国際法規則や制度を位置づけることはできたものの、そうした個々の国際法の規則や制度の実施やその課題の分析に関しては、更に詳細な検討が必要と思われ、今後の課題として残っている。 この論文以外でも、2022年8月に開催された南極研究科学委員会のオープンサイエンスカンファレンスでは、南極条約体制における累積的影響の概念の発展について、また2023年3月に開催された北極サークル日本フォーラムと第7回国際北極研究シンポジウムにおいては、それぞれ北極科学協力協定と北極評議会に関して、本研究テーマと関連する口頭報告を行った。
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