研究課題/領域番号 |
20K13335
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
権 南希 関西大学, 政策創造学部, 教授 (90570440)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 武力紛争 / 国際法委員会 / 国際立法 / 環境損害 |
研究実績の概要 |
2021年度は、これまで遂行してきた研究成果を踏まえて、より具体的な理論的論点を抽出するため、関連国際機関による報告書、研究論文などの文献収集を行うことで研究基盤の理論構築に取り組んだ。理論的基盤の構築のため、国際人道法の観点から武力紛争に関連する環境損害について適用しうる国際法の諸原則及び実定法規範に対する検討を行なうことで、関連する実定法上の限界について問題点を整理した。武力紛争時に行われる戦闘行為の付随的損害を如何に扱うかという根本的な問題に関連して、従来の国際人道法が発展させてきた必要性・均衡性といった一般原則を不確実性が付きまとう環境損害に適用することは容易ではない。武力紛争法全体における均衡性原則の機能を検討した結果、同原則は国際法の適用を確保する役割を果たすものであり、環境保護においても一定程度の役割を果たしうると判断した。 本研究課題は多層的な問題構造を有するため、国際人道法の他にも国際環境法、人権法など関連する法体系からの検討が必要である。国際環境法の観点からは、まず国際環境法上の義務が如何に武力紛争下において適用できるのかを明らかにする必要があり、国際法における条約の効力関係に関する理論の検討に着手した。 本研究の主眼の一つである国際立法プロセスについては、国際法委員会における特別報告者の報告書及び委員会での議論内容を引き続き検討し、理論的基礎及び提示された新しい論点を整理した。 これまでは新型コロナ感染拡大の影響により国際法委員会をはじめとする国際機関の現地調査を行うことができなかったため、2022年度は関連する国際機関の動向及び立法作業の進捗状況に合わせて、可能な限りにおいて実地調査の準備を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は、研究のための施設基盤として文献収集とデータベース作成を行い、これまでの基礎研究から明らかになった論点を整理した。また、国際法委員会の立法過程の検討に着手した。国際法委員会では環境保護措置に関する論点の他にも環境と文化的重要性が認められる保護地区の指定、先住民族の環境保護に関する検討が行われた。これらは武力紛争における環境損害に対応するための具体的な政策を含むものであるが、実効性を確保するためには理論的基礎の分析は欠かせない。これらの視点から国際法委員会の検討プロセスにおける議論内容を精査しつつ、国際環境法の諸原則、先住民族の権利などについて国際法理論の分析に取り組んだ。 また、国際環境法における「武力紛争」の位置づけといった視点に留意し、武力紛争における条約の効力に関して理論的試みをレビューした。 一方、国際立法においては問題状況に関する認識の共有が前提となるため、関連する議論の動向をフォローすることが必要である。新型コロナ感染症の拡大の影響により関連する国際組織における検討作業にも遅延があり、現地に出向いての調査が困難な状況が続くなど、新型コロナ感染症拡大の長期化によって研究環境にも影響が生じており、今年度の研究の進捗状況は「やや遅れている」と判断した。 2022年度以降は新型コロナの感染拡大に関する各国の対応に変化が見られていることから、可能な限り現地における調査及びインタビューが実現できるようにすることで研究の成果を具体化していくことができると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の関心は、特定の法領域を超えた問題状況を国際法が如何に取り扱うことができるのかという問いにある。これは国際法の秩序の中で独自に発展してきた規範の体系が抵触するような状況を如何に解消することができるかという課題に応えることにも繋がる理論的な問題でもある。一般国際法秩序の統合に向けた検討は多くの理論が示されており、国際法の各分野における規範の整合性を保ちながら武力紛争における環境損害に対応するためにこうした研究の蓄積についてレビューする作業を進めている。 これまでの検討では環境法の諸原則及び規則の武力紛争時の適用可能性、実定法規範の限界を中心に理論的検討を行ってきた。さらに、具体的な武力紛争事案を検討することで戦争犯罪としての環境破壊に関する責任の追及可能性についても検討を行った。2022年度はこれらの研究成果を踏まえて、問題領域ごとの規範構造や法的課題について考察することで具体的な研究成果に発展させていくことを目指す。 新たに検討すべき視点として先住民族の権利保護、賠償メカニズムの構築可能性、文化財の破壊などに関する法的論点も理論的な検討課題に含まれる。また、国際立法に関する作業内容については、国際法委員会による国際文書の法的意義、成果物のあり方、意思決定における環境保護に関する価値の共有過程などについて調査するとともに、現地調査などを通じて関連機関における議論の動向をフォローし、分析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症の拡大の影響により関連する国際組織における検討作業の遅延とともに、オミクロンの影響により現地に出向いての調査が困難な状況が続いたことで、予定されていた国内出張及び海外出張を実施することができなかった。 また、書籍などの文献購入額については、2021年度ハーグ国際法アカデミーの夏季研修を受講しており、パンデミックによる特例で、研修期間の終了後も2021年度末まで平和宮図書館(Peace Palace Library)を利用できる資格が与えられたことから、必要な文献を電子媒体で閲覧することが可能であったために次年度使用が生じた経緯がある。 2022年度以降は新型コロナの感染拡大に関する各国の水際対策に変化が見られていることから可能な限り現地における調査及びインタビューが実現できるようにすると共に入手が必要な文献については購入する予定である。
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