本研究は、研究代表者がこれまで実施してきた国際河川法研究を土台としつつ、新たに海洋法に研究対象を広げ、陸起因汚染問題に対し、淡水と海水を統合的に捉え、新たな理論構築を試みることを目的としている。本研究は、次の①から③へと段階を経て、この目的を達成しようとするものである。すなわち、①海洋法体系における河川法の位置(海洋法は陸起因汚染に関し国際河川をどれくらい考慮してているか)、②河川法体系における海洋の位置(河川法は海洋環境の保護にどれほど貢献しうるか)、③河川法と海洋法の調和・統合(上記①及び②を踏まえ、河川法と海洋法を統合するための理論構築)である。まず、①②について、国際河川法及び国際海洋法それぞれの分野における陸上(河川)に起因する汚染等の国際法原則の検討を行ってきた。 国際河川法の分野においては、特定の地域の水紛争において、国際河川法の二大原則とでもいうべき重大損害防止原則と衡平利用原則が互いにいかに関連しあって、適用されうるのか、を考察した。他方、海洋法の観点からは、陸起因の海洋汚染の問題として、とりわけ現在、近隣諸国からの関心が高まっている福島第一原子力発電所からのALPS処理水の放出問題を例として、陸起因海洋汚染に関する国際法の論点整理を行った。さらに、③への応答として、河川と海洋のそれぞれの分野における陸上原因の国際法原則に共通項を見出し、それらを統合する理論の構築について検討を行った。
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