2023年度は、傷病労働者の適正処遇に向けた労使対話システムを考察するために、フランスに赴きインタビュー調査を予定していた。しかし、渡航が制限なく可能となったものの、とくに医療関係者については面会の申出を断るものも少なからずおり、効率的な調査活動ができる状況ではなかった。以上から、本年度も渡航調査を事実上断念せざるを得ない状況が続いた。 そこで、本年度は昨年度に引き続き、国内において、人事担当者や労働組合関係者などにお話を伺うことで、コロナ禍による労働者の労働形態の変化が、労働者の健康管理にどのような影響を及ぼし、またそれにより労働者の健康管理に関する使用者の法的義務にどのような変化を生じさせるか、分析を行った。その結果、コロナ禍を経てテレワークが多くなったことから、労働者の自宅など使用者の監視が行き届かない空間において、労務管理をどのように行うかが重要であるとの意見を多くいただいた。現状、多くの企業では、テレワークとオフィス通勤をバランスよく組み合わせて利用するようになっているが、企業の中には、オフィス通勤の際に、自宅等の作業環境に関する状況の報告を求めたり、改善方法につき議論する場を設けるなどの工夫をしている企業もみられた。 また、政府が副業兼業を推進していることをうけて、より柔軟な働きかたを求め、雇用ではなくフリーランスという働きかたを(一部に)取り入れる者が増えているのではないか、また、フリーランスは指揮監督者が存在しないため、一層のこと健康管理が難しくなるという側面を有しているのではないかとの仮説をたて、お話を伺った。その結果、一般論としては、そのような側面はあり、どのように健康管理を規律するかということが新たな課題として浮かび上がるだろうが、実際は政府の目論見ほどは副業兼業は普及しておらず、そのような課題は喫緊の問題としては生じていない、との意見を多くいただいた。
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