研究課題/領域番号 |
20K13343
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
高橋 有紀 福島大学, 行政政策学類, 准教授 (00732471)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 更生保護 / 更生保護施設 / 保護観察 / 精神科デイケア / 精神保健福祉 |
研究実績の概要 |
2021年度は、2020年度に引き続き文献調査を行うとともに、更生保護施設の処遇施設化について更生保護関係者と精神保健福祉関係者の双方にヒアリングを行った。また、刑事法・刑事政策に関連した国内外の学会やシンポジウムへの参加を通して、更生保護施設における処遇や、少年法や刑法の改正が更生保護実務に与え得る影響について、最新の知見を収集することに努めた。 文献調査では主に、精神科デイケアの現状や「価値に基づく医療・福祉実践」に関する理論、精神障害者の地域生活移行、更生保護や犯罪者処遇に関する理論・実践等に関する文献を収集し、それらの内容を検討した。それらを通して、精神科デイケアの現状と、地域の実情を踏まえた更生保護の取組みのそれぞれに関する文献で、札幌市の大通公園メンタルクリニックの活動が紹介されていることに関心を抱き、同クリニックを視察するともに同クリニックの精神保健福祉士にヒアリングを行った。 その他のヒアリングとしては、福岡保護観察所、東京保護観察所のそれぞれにおいて、それぞれの地域の更生保護施設退所者に対するフォローアップ処遇の現状や課題、更生保護施設における通所処遇が出所者等の恒久的な「囲い込み」を招きかねない懸念について、保護観察官への調査を行った。また、更生保護施設・札幌大化院において、同施設を視察するとともに、施設長及び施設長経験者に施設退所者へのかかわりやそれに伴う課題についてヒアリングをした。 さらに、2021年度は本研究の途中経過を踏まえ、地域における出所者等への重層的支援の方向性に関する理論的な課題について、学会誌や大学紀要での論文執筆や国内外の学会での口頭報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度同様、コロナ禍により更生保護施設や精神科デイケアに関する対面のヒアリングが困難であること、精神保健福祉関連の学会やシンポジウムの中止や非公開が続いていることから、当初予定していたヒアリングや精神保健福祉分野の学会等への参加ができずにいる。それに伴い、本研究の途中経過のうち特に精神科デイケアと更生保護施設の通所処遇に共通する課題について学会報告等を行い、精神保健福祉関係者との意見交換に繋げるという計画も実行できていない。ただし、2021年度は、数は少ないもの、更生保護施設や精神科クリニックでのヒアリングや、保護観察所の担当者へのヒアリングを行えたため、2020年度に比べ、研究を大きく前進させることができた。また、研究の途中経過のうち、地域福祉における重層的支援体制との関係について論文を執筆できた点も一定の前進と評価できる。 また、文献調査を通じて、精神障害者の地域生活移行の実践に熱心な医療機関や保健機関には、東北地方の機関も多いことが明らかとなったほか、精神障害者や刑務所出所者を受け入れるグループホーム等への委託費の加算の仕組み等、法制度の詳細についての知識を深めることもできた。これらにより、2022年度に、研究実施者の居住する福島県周辺の医療機関や精神保健福祉センターでヒアリングを行うことや、グループホームへの委託費加算の仕組みの変遷に着目した研究を行い、論文執筆や学会発表を行うことなど、今後の研究の方向性が見いだせた。 これらのことから、研究の進捗状況には遅れも見られるものの、今後の研究には一定のめどが立っていると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は本研究の最終年度であることから、2021年度までの文献調査及びヒアリングを継続するとともに、研究成果をまとめ公表することに力を入れて研究を進める。 文献調査では、2021年度までの研究で検討途中である「価値に基づく医療・福祉実践」に関して検討を深めること、本年4月の少年法改正や近く予定されている刑法改正に伴う更生保護制度改革について最新の情報を得ること、精神障害者や刑務所出所者を受け入れるグループホームへの委託費の加算や専門研修の仕組みの変遷と現状を把握することに特に注力する。 ヒアリングでは、精神障害者の退院支援や地域生活支援に力を入れている東北地方の医療機関や精神保健福祉センターへの聞き取りや、更生保護施設を退所した者へのフォローアップ処遇について法務省保護局の担当者や更生保護施設職員への聞き取りに特に注力する。また、その際、コロナ禍の状況を踏まえ、必要に応じてオンラインや郵送・メール調査の方法も検討する。 そのうえで、2022年度夏以降には、これまでの研究成果を踏まえ、更生保護施設における通所処遇の現状と課題について、日本司法福祉学会や日本更生保護学会での口頭発表やポスター発表を行う。それらを通して、2022年度中もしくは2023年度初頭には、本研究の成果を学会誌もしくは大学紀要への論文投稿により公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度には、コロナ禍の影響で対面でのヒアリングを見送らざるを得ない状況が発生したほか、参加した国内及び国際学会がすべてオンライン開催となったため、研究計画段階に予想された旅費の使用が少額にとどまった。一方、2022年度には、すでに対面開催の学会への参加が予定されているため、それに伴う旅費支出が予想されること、可能な範囲で対面でのヒアリングを実施予定であること、文献調査の進展に伴い、書籍を追加で購入する予定があること、研究成果の公表に向けた作業で各種の事務用品を購入する予定があることから、それらにより2021年度の未執行分は2022年度に執行予定である。
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