研究課題/領域番号 |
20K13344
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
八百 章嘉 富山大学, 学術研究部社会科学系, 准教授 (80725474)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 条件付起訴猶予制度 / 無罪推定法理 / 訴追裁量権 / 検察官 / 再犯防止 |
研究実績の概要 |
本研究は、訴追裁量権および無罪推定法理の意義・射程範囲を解明した上で、無罪推定法理に違反しない条件付起訴猶予制度の詳細な制度設計を提示することを目的とするものである。 令和2年度の研究計画は、条件付起訴猶予制度と訴追裁量権・無罪推定法理の関係について、日本の先行研究に分析を加え、本研究の理論的基盤を固めると同時に、条件付起訴猶予制度に類似するアメリカの法制度に関する研究を進めるためにアメリカの検察実務の実態調査を行う予定であった。 令和2年度の実績として、条件付起訴猶予制度の導入を検討する法制審議会の議論を前提として、同制度への批判的見解を提示する先行研究の収集・分析を進め、指摘される理論的問題を明確化したことが挙げられる。同制度が抱える問題は多岐に渡るが、とりわけ無罪推定法理ならびに検察官の起訴猶予権限の観点から向けられる批判には根強いものがある。他方で、同制度が想定する措置は刑罰と同視できるものではないことや、再犯防止への取組み強化など近時の検察官に求められる役割を鑑みれば、検察官が起訴猶予の段階で一定の働き掛けを行う制度の必要性を説く先行研究もあり、そのような肯定的見解の主張についても整理を行った。以上の検討を踏まえて、次年度以降は本格的に無罪推定法理の意義・射程範囲を解明する。 なお、新型コロナウイルスの世界的流行により、渡米することが叶わず、アメリカの検察実務の実態調査を行うことができなかった。そのため、文献を中心にその制度的概要や法理論的問題を整理するにとどまったが、特別予防を目的とした検察官による公訴提起段階でのディバージョンは積極的に行われていること、またその根幹にはコミュニティと検察官の連携が重要な理念として存在することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスの世界的流行の影響を受けて、本研究は当初の予定よりやや遅れていると言わざるを得ない。 具体的には、令和2年度に予定していたアメリカの検察実務の実態調査を実施することができず、アメリカにおける運用上生ずる実務的な問題を把握することができなかった。また、我が国においても新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、大学キャンパスの閉鎖、学会・研究会の中止・延期、調査出張の自粛・禁止などが発生したことで、研究活動が一定の制約を受け当初の予定通りに進めることができなかった。 しかしながら、文献を中心とした国内外の先行研究の調査は一通り進めることができたため、本研究の理論的基盤を固めるには至った。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、前年度の遅れも踏まえて、条件付起訴猶予制度と無罪推定法理の関係を解明することを目的に、アメリカ法の知見を手がかりとして無罪推定法理の意義と射程範囲を解明する。また、新型コロナウイルスの感染状況が改善し渡米が可能となれば、前年度に実施できなかったアメリカの検察実務の実態調査を行う予定である。 令和3年度も渡米が困難であると判断した場合は、メールでの調査表の送付やビデオ会議ツールなどを駆使して、オンラインでアメリカの実務家からヒアリングを実施することも想定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は、新型コロナウイルスの世界的流行により、使用予定額の大半を占めていたアメリカの検察実務の実態調査を実施することができなかったこと、および国内の学会・研究会が軒並み中止やオンライン開催となったことから、旅費を中心とした研究費の執行ができなかった。 しかし、アメリカの検察実務の実態調査については令和3年度に実施する予定であり、それに伴ってアメリカの関連図書を購入することになることが予想されるため、使用計画に問題が生ずることはないと思われる。
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備考 |
令和2年度は、本研究と必ずしも直結するものではないが、八百章嘉「デジタル証拠と伝聞法則:eHearsay理論を手がかりに」中空壽雅・上野正雄・辻脇葉子・黒澤睦編『刑事立法の動向と法解釈:山田道郎先生古稀祝賀論文集』(成文堂、2021年3月)79-100頁が得られた。
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