研究課題/領域番号 |
20K13348
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
冨川 雅満 九州大学, 法学研究院, 准教授 (80781103)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 電子計算機使用詐欺罪 / 窃盗罪 |
研究実績の概要 |
令和3年度は、①電子計算機使用詐欺罪に関する基礎研究、②準詐欺罪の裁判例調査、③詐欺罪の錯誤要件に関する裁判例調査を主として行った。 これまでの研究過程では詐欺罪及び窃盗罪について、その犯罪特性に照らした実行の着手判断のあり方を検討してきたところ、令和3年度は、電子計算機使用詐欺罪に関しても研究対象を広げるべく、まずは①電子計算機使用詐欺罪の性質に焦点を当てた研究を行なった。特に、電子計算機使用詐欺罪の立法趣旨や判例・裁判例の網羅的調査に注力した。その結果、わが国においては、電子計算機使用詐欺罪の適用場面が、立法趣旨で示された典型例や最高裁判例(最決平成18年2月14日刑集60巻2号165頁)の類似事案に限定されていることがわかった。また、その要因としては、同罪が他の財産犯が成立しない場合にのみ適用される補充規定であることのほか、同罪の成立要件が構造的に複雑であること、また、同罪の中核的な要件である「虚偽の情報」「虚偽の電磁的記録」の解釈に安定的な指針が示されていないことが挙げられる。このような状況は、現代型詐欺の適正処罰の障害となりうるものであり、今年度の研究により本研究の今後の課題が明らかとなった。 また、②準詐欺罪及び③詐欺罪の錯誤要件について、裁判例の傾向調査を行なった。いずれのテーマについても、わが国ではこれまで研究の対象とされてこなかったため、判例実務の動向をまとめた研究成果も乏しい。令和3年度は、準詐欺罪及び詐欺罪の錯誤要件が問題となった裁判例資料を収集し、各事案の特徴ごとに類型化する作業を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、研究進捗に停滞が生じたところ、研究計画全体では、依然として進捗状況に遅れが生じている。 もっとも、当初の研究計画では、本研究の3つの課題であるa処罰の開始時期(実行の着手時期)に関する研究、b詐欺罪の錯誤要件に関する研究、c弱者保護規定(準詐欺罪)の活用に関する研究を順番に行う予定であったところ、令和2年度末に、各研究課題に同時に取り組むことで、研究計画全体の遅れを生じさせないようにしたため、令和3年度単独の研究進捗状況は良好に進めることができた。 令和2年度、在宅ワークに伴う研究環境の整備を行なったことで、新型コロナウイルスの感染が拡大する時期にあっても、円滑に研究活動を進めることができた。一方で、今年度も在外研究を行うことができなかったため、この点について課題を残している。研究全体計画の遅延及び在外研究の障害に対しては、次項で説明する通り、令和4年度の研究計画を修正することで対応することを検討している。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、令和3年度同様に、本研究の3つの柱、a処罰の開始時期(実行の着手時期)に関する研究、b詐欺罪の錯誤要件に関する研究、c弱者保護規定(準詐欺罪)の活用に関する研究を同時に進捗させる予定である。 aの研究課題については、令和3年度末に新しい最高裁判例(最三小決令和4年2月14日裁判所ウェブサイト)が登場した。令和4年度は、まずこの判例研究から着手する予定である。bcの研究課題については、令和3年度に整理した裁判例をもとに、判例傾向の分析を行い、解釈論上の問題点を抽出する予定である。 令和2年度からの進捗状況の遅延に伴い、当初予定していたように、比較法調査を十分に行うことができずにいる。それゆえ、各研究課題についての十分な成果発表には至っていない。令和4年度の状況次第ではあるが、各年度で予定していた研究成果の公表は、最終年度に移行する可能性も検討している。もっとも、比較法調査については、文献調査で一定程度代替することも可能である。令和4年度の段階で、関連する資料の収集をすでに開始しているため、令和4年度は、これらの文献調査・分析を行う予定である。 なお、令和5年度に至っても、海外渡航が困難な状態が継続した場合には、近時、急速に普及するオンライン会議ツールを活用することで、代替策とする予定である。 以上のことを前提として、令和4年度は、abcの各研究課題につき、わが国の判例調査及び外国法の文献調査を主軸に据えることで、令和4年度以降の円滑な研究進捗の土台を固める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、在外研究を行うことができなかったため、旅費として計上していた予算を使用することができなかった。海外出張ができ る状況になれば旅費に、依然として海外出張ができなければ書籍購入費に含めて使用する。
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