本研究は、精神障害・知的障害を有する被疑者を保護するために身柄拘束下の取調べ及びその処遇においてどのような保護策を設けることが適切であるかに検討を加えるものである。 2021年度は、前年度に引き続き、知的障害・精神障害を有する被疑者に対して様々な保護策を設けているイギリスとの比較検討を中心に研究活動を行った。具体的には、親族や福祉関係者等が取調べ等で立会いを行う「Appropriate Adult(以下「AA」と表記する )」というイギリスの制度と同様の制度が我が国でも必要である点を明らかにした前年度の研究を前提として、本年度の研究では知的障害・精神障害を有する被疑者のために設けられている保護策が取調べにおいて実施されなかった場合にその取調べで得られた供述の証拠能力をどのように解するべきであるのかを、AAに関するイギリスの判例・裁判例を中心に分析した。そして、手続違反と自白法則、違法収集証拠排除法則に関する我が国の判例・裁判例に照らして、我が国ではどのように考えることができるのかを考察していった。 イギリスの証拠法則上、AAに関する義務違反はそれ自体で証拠排除を直接導くものではないが、自白の信用性や手続の公正性に重大な影響を与える要素の一つであると捉えられていることが明らかになった。 手続違反と自白法則、違法収集証拠排除法則との関連をどのように整理するのかに関して我が国では学説上大きな対立があるが、イギリス法におけるAAに関する義務違反の証拠法則上の取扱いは重要な示唆をもたらすものであると思われ、本年度の研究は、AAのような制度を採用した場合にその実効性を担保するために必要な証拠法則上の取扱いを示すのみならず、自白法則の論拠や自白法則と違法収集証拠排除法則との関連に関する議論にも波及効果をもたらすものであると考える。
|