研究課題/領域番号 |
20K13350
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
谷井 悟司 中央大学, 法学部, 助教 (00803983)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 刑法 / 過失犯 / 正犯 / 共犯 / 統一的正犯概念 / 制限的正犯概念 / ドイツ法 / スイス法 |
研究実績の概要 |
本研究は、いわゆる過失の競合事案において個人が負うべき刑事過失責任の限界を明らかにするべく、過失犯における正犯性に着目し、可罰的な過失正犯と不可罰的な過失共犯とを区別することで、新たな過失処罰限定理論を構築することを目的とする。具体的には、過失犯においても、第一次的な責任類型である正犯と、第二次的な責任類型にすぎない共犯とが区別され、過失犯の処罰範囲は前者の可罰的な過失正犯に限られることを示す。その上で、過失犯処罰の分水嶺となる正犯性の内実を明らかにし、もって可罰的な過失正犯と不可罰的な過失共犯との区別基準を定立する。 そこで、2021年度は、昨年度に一部先取りしたところを踏まえつつ、基礎研究に主眼を置いて、過失犯における正犯・共犯の区別可能性の解明に取り組んだ。 具体的には、いわゆる統一的正犯概念をめぐる議論を素材として、研究を進めた。すなわち、わが国の通説的な理解によれば、過失犯においては、故意犯におけるのと異なり、正犯と共犯とは区別できないとする統一的正犯概念が妥当するものとされてきたところ、このような従来の理解に対して、そこに含まれる問題点を析出し、過失犯においても正犯と共犯とが区別可能であり、また、区別すべきであることを理論的に明らかにしようと試みた。かかる試みは、過失犯においても、故意犯におけるとの同様、正犯と共犯との区別を前提とした、いわゆる制限的正犯概念が妥当しうることを示そうとするものである。本年度の研究においては、主に、わが国と同様、あるいはそれ以上に統一的正犯概念がかねて支配的地位を占める一方で、近時制限的正犯概念が有力となりつつあるドイツ語圏(とくに、ドイツ・スイス)の議論を調査することを通じて、過失犯においては統一的正犯概念が妥当するとする通説的理解に対して、批判的検討を加えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記【研究実績の概要】で述べたとおり、2021年度の研究は、ドイツ法・スイス法における議論の調査・検討が中心であった。そのため、両国の議論状況を的確にフォローするべく、現地の研究者らへのインタビューをはじめとする、比較的短期の出張滞在を予定していたところ、これを実施することができなかった。関連文献などの渉猟に努めたものの、いまだ両国の議論を十分に咀嚼できたものとは言い難く、それゆえに、通説的理解に対する批判的検討もなお不十分なものと思われることから、過失犯における正犯・共犯の区別可能性の解明という当初の目的を達成するためには、さらなる調査・検討が必要であるものと考えている。以上の理由から、現在までの進捗状況としては、「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、まず、上記【現在までの進捗状況】で述べたとおり、積み残しとなっているドイツ法・スイス法における議論の調査・検討を引き続き行い、過失犯における正犯・共犯の区別可能性を明らかにする。そのためにも、可能な限り、現地への出張滞在を実施することとし、かりにそれが困難となった場合には、オンライン形式でのインタビューなど、代替手段を検討する。 その上で、当初の計画に従い、これまでの研究をもとにした発展的研究として、可罰的な過失正犯と不可罰的な過失共犯との区別基準の定立を試みる。具体的には、日独瑞の3か国の比較研究を通じて、過失犯において正犯と共犯とを区別するための具体的な判断基準を構築するとともに、これを日本の判例・裁判例にあてはめることで、わが国の裁判実務において、その使用に耐えうるものとなるのか検証を行う。 そして、本研究全体の成果をまとめ、所属大学の紀要である『法学新報』または『比較法雑誌』にて公表することを予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、出張滞在にかかる費用として想定していた分についての支出がなかった一方で、その分を実質的には次年度から前倒しする形で図書購入費などに充てたものの、なお差額が生じたことによるものである。次年度の使用計画としては、出張滞在にかかる費用、および、本年度購入した分を除いた図書の購入費を支出することを予定している。
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