令和4年度は、受罰主体拡張法理の解明という全体構想のうち、(ⅰ)幇助犯の処罰根拠となるものは何か、についての研究を中心に取り組んだ。 この研究から、①幇助犯も(正犯と同様)具体的な時期・規模において現実に発生した結果を不良変更させたという意味で「条件関係」を持つからこそ、結果発生との厳密な事実的繋がりが認められ、そのような幇助の因果性こそが、幇助行為者の個人責任を基礎づける、②この視点でこそ、既遂正犯への幇助、未遂正犯への幇助、不処罰である幇助未遂を厳格に区別できる、③幇助犯に対する条件関係の要請は、機能的統一的正犯体系下の援助正犯(我が国の従犯に相当)で妥当するのみならず、我が国が採用する限縮的正犯概念下の従犯理論でも妥当すべき、との成果を得た。この成果について、その構想を実務家・研究者をメンバーとする研究会等において報告し意見交換を行なった上精緻化させたが、2023年6月開催の日本刑法学会第101回大会にて「幇助犯の処罰根拠としての因果性」というテーマで研究報告を行う運びとなっている。 また、令和3年度までに本研究課題で公刊・報告した、(ⅱ)論文「援助正犯概念と従犯概念の比較分析」(山口厚ほか編『高橋則夫先生古稀祝賀論文集 上巻』〔2022年〕925頁-941頁所収)、(ⅲ)研究報告「幇助行為の特定」(第113回早稲田大学刑事法学研究会〔2021年12月〕)を基に、私の年来の研究内容をさらに精緻化・発展させ、(ⅰ)のように、新たな知見を得ることができた。すなわち、(ⅱ)の成果により、上記(ⅰ)③のように、従属構造の同質性から援助正犯・従犯には等しく条件関係を求めるべきとの知見に発展し、また、(ⅲ)の成果により、幇助行為の特定には幇助行為者の行為が正犯にいかに受容されたかの検証が必要であり「正犯の受容」というファクターが幇助の因果性理解に影響する、との知見に発展した。
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