サイバー・フィジカル・セキュリティの維持・向上に向けた適切な法律論を模索した。サイバーセキュリティに関する罰則(サイバー犯罪対策規定)と、放火や飲料水に関する罪などの公共危険罪との接合を目指し、サイバー攻撃の危険性に着目する立法論を展開することとなった。 まず、サイバー・フィジカル・セキュリティに関連する政策的議論と罰則についての現状についての研究成果を公表した。その上で、サイバー・フィジカル・セキュリティに関する罰則は多岐にわたっていることを踏まえ、そうした罰則プロパーの研究も進めた。研究対象とした犯罪類型にはマルウェアに関する犯罪やクラッキングに関する犯罪がある。我が国では、前者は不正指令電磁的記録に関する罪、後者は電子計算機損壊等業務妨害罪である。前者については、本研究期間中にコインハイブ事件の最高裁判例などを通じて解釈が深まったこともあり、同事件における議論も吸収し、不正指令電磁的記録に関する罪についての複数の論稿を公表することで、本研究課題の基礎的な部分を構築した。また、後者については、現代的な事案に対しても適用可能な電子計算機損壊等業務妨害罪の解釈論を精緻化する論稿を公表した。 以上の研究成果、つまり、サイバー・フィジカル・セキュリティと罰則の議論、罰則プロパーの解釈論の精緻化を通じて、さらに、ドイツ法などの比較法的な知見も取り入れた立法論的な提案に係る論稿を近日公表する予定である。サイバー・フィジカル・セキュリティは、政策的な重要課題ではあるが、我が国において、それに関する罰則の立法論が盛んというわけではないから、実際に立法の気運が生じた際にはさらなる検討要素が発見されるかもしれないが、本研究において、そうした場合においても、立法論の基礎を提供できたのではないか、と考えている。
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