写真の中から犯人を正確に特定したことを示唆するフィードバックを目撃者に与えると,目撃者の判断の正確性に関係なく自信を高め,目撃した出来事に関する記憶をゆがめる可能性がある。しかし,フィードバックが,目撃者のその後の「行動」を変化させるのかは明らかとなっていない。そこで本研究では,PIFEによって歪んだ記憶評価が,その後の行動に影響を及ぼすか検討するため4件の実験を実施してきた。行動指標として,実験参加者に目撃に関する供述の録音(実験1),裁判での実験データの利用許可(実験2~4),識別に関する供述の記述(実験4)などを求めた。 その結果,フィードバックを返された参加者は,フィードバックを返されなかった参加者よりも,裁判での実験データの利用を多く許可したり(実験2),識別に関する供述を求められた際には,より多くの記述を行った(実験4)。ただし,この研究結果は実験を通じて一貫しなかった。確信度などの記憶評価にはPIFEの効果が一貫して見られたため,単なる実験操作の失敗とは考えにくい。理由は2つ考えられる。(1)天井効果と(2)要求特性である。(1) この実験では,参加者に「裁判でのデータ利用の許可」などを求めたが,これを許可する参加者の割合は条件に関わらず非常に高く,実験を通じて80%を超えていた。このように得点が偏っていると,フィードバックの有無による差を統計的に検出しにくい。(2)この研究で求められた行動は,裁判の当事者や研究者に協力するという「社会的に望ましい行動」であった。そのために,フィードバックとは無関係に,これに応えることが実験者(あるいは裁判)にとって良いことなのであろうと参加者の多くが推測したと考えられる。その結果,ほとんどの参加者が協力的な行動を取り,天井効果が生じた可能性がある。 最終年度はこれらの実験を論文化し,国際ジャーナルに投稿した。現在審査中である。
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