研究課題/領域番号 |
20K13373
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研究機関 | 駿河台大学 |
研究代表者 |
林田 光弘 駿河台大学, 法学部, 講師 (70822667)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | フランス / 取得時効 / 所有の意思 / 占有 |
研究実績の概要 |
本研究は、①フランス法における所有者意思(animus domini)の観念に着眼し、同観念がフランス民法学説でどのように理解され、また取得時効の成否をめぐる訴訟の中でいかなる機能を果たしているのかを明らかにするとともに、②フランス法での議論を踏まえて、所有の意思の判断基準という我が国の法解釈学上の問題に対して有意な示唆を得ることを目的とする。 以上の目的を達成するために、今年度は、フランス民法学の比較的新しい文献を中心に渉猟する作業を行った。その成果として、近時のフランス民法学説において、所有者意思が占有者の心理状態として捉えられる一方、所有者意思の有無は専ら占有取得原因たる権原によって抽象的に評価され、占有者の内心の意思が具体的に探究されることはないという基本的な理解が看取された。近時の判例に目を転じても、占有者による公租公課の負担のみでは、所有者意思の証明には不十分であるとする注目すべき判決が現れるに至っている(Cass. Civ. 3e, 26 mai 2016, no 15-21.675)。 以上のフランス法の理解は、次の2つの意味で示唆的である。まず、フランス民法典制定以降の学説を俯瞰すると、所有者意思が占有取得原因たる権原により抽象的に評価されるという説明が当初から見られたわけではない。ここには、フランスの学説史をたどる必要が見いだされる。次に、我が国の法解釈学と比較するならば、フランス民法学の理解は、一見すると、我が国の民法学の到達点とは異なる。というのも、我が国では、所有の意思は占有取得権原または占有事情により二元的に判断されるという理解が一般的だからである。そこでこの点に関するより踏み込んだ研究が今後求められる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度は、フランスに渡航して本研究に必要な文献の収集を行う予定であったが、新型コロナウイルス感染拡大に伴う勤務校での渡航自粛要請のために中止を余儀なくされた。また、勤務校でのオンライン授業への対応もあり、当初予定していた研究計画も一部変更を迫られた。以上のことから、令和2年度は、研究成果の論文発表を見送らざるを得なかった。この点において、研究はやや遅れていると言わざるを得ない。しかしながら、令和2年度で得られた知見とそこから生じた新たな課題については、令和3年度において更に分析を進める予定であり、その成果を踏まえて、論文の発表も可能であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、①前年度の研究を継続発展させてフランス民法学の現況をさらに詳らかにするとともに、②通時的な視点に立って、フランス学説の現在の理解がどのような過程を経て形成されてきたのかを明らかにする。①の課題については、令和2年度に必ずしも十分に行うことができなかった、フランスの判例の調査を重点的に行う。②の課題については、フランス民法典の制定前後における主要学説にまで遡り、フランス民法学に多大な影響を及ぼしたと目されるドイツ法学との連関も視野に収めつつ分析を進める。これらの作業を通じて、フランス法における所有者意思の観念について歴史的・俯瞰的に考察する。さらに、令和4年度以降には、以上の研究成果を踏まえて、翻って、我が国における所有の意思の判断基準という問題に対して、比較法的な見地から検討し、解釈論の提示を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、研究目的の達成に必要な文献を収集するためにフランスに渡航する予定であったが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い勤務校から渡航自粛を要請されたため中止を余儀なくされ、旅費に充てる予定であった使用額の支出がなくなった。次年度は、感染状況など諸般の事情を見定めつつ、可能であれば渡航を計画しており、未使用額についてはこれに充てる予定である。
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