研究課題/領域番号 |
20K13376
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研究機関 | 大東文化大学 |
研究代表者 |
萩原 基裕 大東文化大学, 法学部, 准教授 (30719901)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 追完請求権 / 契約不適合責任 / 特定物 / 代替物の引渡し / 売買契約 |
研究実績の概要 |
本研究は、民法562条に規定されている追完請求権の本質ならびに追完請求権にかかわる各種問題の検討を対象とする。令和2年度における研究実績として、売買契約の目的物が特定物である場合の代替物の引渡しによる追完の可否について検討した。民法562条には、目的物に契約不適合がある場合、買主は、修補、代替物の引渡し、不足分の引渡しによる追完を請求できるとある。これら追完請求に基づく買主の請求は、改正論議では目的物が特定物であると種類物であるとを問わないとされているため、目的物が特定物であってもこれら各種の追完方法を買主は請求できるということになる。しかし特定物は契約当事者が特にその物を売買契約の目的物として指定した場合の目的物を指すところ、その概念上、それに代わるもの、つまり代替物は存在せず、事実上代替物の引渡しによる追完は、目的物が特定物の場合には不能ではないかという疑問が生じる。そうであるとしても修補による追完も認められる以上、買主は代替物の引渡しが請求できずとも修補を通じて契約に適合する目的物を取得することもできよう。しかし修補がそもそも不可能であるといった場合も考えられる。そこで売買契約において目的物が特定物の場合にも、代替物の引渡しによる追完が認められるべきかどうかを検討した。 この検討は追完請求権の本質にもかかわるところであり、また具体的な追完方法の選択によっては売主と買主の利害に衝突が生じることもある点で重要な論点でもある。この検討に際しては、同様の問題がすでに生じてたドイツの判例や学説における議論状況の分析を通じ、日本民法においてあるべき解釈論として、当事者意思を基調とし、契約の内容、当事者の意思から特定物であっても代替性が認められるべきであれば、代替物の引渡しによる追完を認めるべきとの結論に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和2年度の研究は、コロナ禍に見舞われたということもあって予定から大幅に遅れることとなってしまった。特に初年度(令和2年度)は改正前民法における瑕疵担保責任の議論の整理を予定していたものの、大学の入講制限や図書館の利用制限などもあって資料収集がはかどらなかった。しかしデータベースを用いたドイツ法判例、資料などの収集はできたので、追完請求権に関する本質と射程の研究という課題の範囲でできることとして先の実績を達成することはできた。令和3年度の研究課題に取り組むにあたっても感染症の影響を受けることと思われる。できるだけ本来の予定を達成できるよう、研究課題に取り組んでいきたい。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度も、引き続き感染症対策による各種制限を受けつつ、可能な範囲で研究活動を続けていく。本来の予定では令和2年度の研究を受けて、追完請求権の本質を明らかにすることが目的であったが、令和2年度の研究自体を修正せざるを得なかったため、本年度も研究課題に沿うかたちで研究を進めていく。具体的には、追完請求権の本質と射程について、契約不適合のある目的物が、別の物に取り付けられてしまった後で買主が不適合に気付いたのち、追完請求をした場合に、売主が不適合物の取外しや不適合のない物の取付け、あるいはそれらのための費用の負担などを義務付けられるのか、という課題に取り組んでいく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度はコロナ禍の影響もあって予算を用いた文献の選定ならびに購入も頻繁にはできなかった。また、コロナ禍のために特に海外渡航および現地での文献収集や調査ができず、旅費としての予算使用ができなかったことも次年度使用額が生じた原因の一つである。 令和3年度では令和2年度に購入できなかった分も含めて必要な資料の購入などを進めていきたい。
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