2022年度は、前年度までのアメリカ法に関する研究成果を総括するとともに、日本との比較検討を行った。 前年度までの研究によると、農産物を目的物とする担保融資においては、必ずしも担保目的物が流入・流出を繰り返す(新陳代謝が生じる)ということが想定されていたわけではない。そのことは、Food Security Actと近時のUCC第9編の改正において顕著であり、担保目的物となっている農産物の買主は、棚卸資産の買主に認められる、事業の通常の過程の買主の保護を受けることができるとは限らない。むしろ、歴史的にみると、買主に対しても追及力を有するというのが農産物担保の原始形態であったといえる。その背景には、農産物の生産の特性がある。すなわち、農産物の生産が一定の季節性・周期性をもっており、それに応じて在庫量が著しく変動することから、融資においても、その融資により生産された農産物からの債権回収が予定されていた。 もちろん、その後の農業・畜産業の進展に伴い、農産物の生産の季節性・周期性が希薄になり、一定の在庫量が維持された状態で事業が継続するに至っているため、継続的融資のなかで担保目的物が流入・流出を繰り返すことを念頭に入れた浮動担保も利用できるようになっている。しかし、上記の原始形態はいまも残存しており、法律上、選択的に利用できるようになっている。 ところで、日本における農産物を活用した担保融資においては、ABLの活用が促されている。そこで予定されているのは、継続的融資である。しかし、アメリカにおける農産物担保融資においては、その対象となる農産物の季節性・周期性が意識されており、在庫量が著しく変動する場合には、むしろその農産物自体から債権回収を行うことが予定されていた。そうであるとすると、融資対象者の農産物の生産の態様に合わせた融資を可能にする法制度が望ましいように思われる。
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