研究課題/領域番号 |
20K13380
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
山田 孝紀 日本大学, 法学部, 講師 (80847434)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 比例原則 / 信義則 / 権利濫用 / ドイツ法 / 契約の内容形成の制限 / 過大な権利行使の制限 |
研究実績の概要 |
本研究は、ドイツ民法を比較対象として、日本において比例原則による契約自由の制限が正当化される根拠、比例原則の位置づけを検討することを目的とする。 2021年度は、第1に、比例原則が具体的な場面でいかなる機能を果たすのかを解明するために、ドイツにおける売買契約と請負契約の給付に代わる損害賠償の算定方法を検討した。すなわち、買主や注文者が契約に適合しない物の瑕疵の除去費用を請求するためには、契約に適合しない物の瑕疵を除去しなければならないのか、という問題である。この問題は、比例原則それ自体を直接的に扱うものではないが、給付に代わる損害賠償額が債務者に過大な負担となる場合に、比例原則の考え方により賠償額を制限する学説の見解を見出した。このドイツの見解に示唆を得て、注文者が瑕疵ある建物を第三者に売却した後でも、設計・施工者等に修補費用相当額の賠償を請求できるとした日本法の判例を批判的に分析した。この成果を日本法学87巻3号に投稿した。 第2に、ドイツ法を題材に、民法、特に契約法における比例原則の根拠や適用場面・機能についての研究を進め、研究会での報告を行った。同報告の質疑応答からは、比例原則が民法で適用される根拠に即して、その原則の適用方法や機能を分析する必要を認識することができた。具体的には、信義則に基づく配慮義務から比例原則が要請され、私人の権利行使が制限される場面(主に契約関係のほか、契約外では相隣関係の調整)と、不法行為のように私人間の基本権の対立に際して比例原則が要請される場面を区別する視点を得た。 第3に、比例原則の新たな拡がりも確認することができた。例えば、ドイツ法の学説では、比例原則による高額な損害賠償額の調整を通じて、アメリカ法の懲罰的損害賠償を認める見解が登場しているようである。こうした見解の詳細は、次年度以降に文献精読を通じて明らかにしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず、ドイツ民法における比例原則の位置づけ・適用場面・機能に関する考察について、ドイツ法の文献精読を行っているものの、当該作業に想定以上の時間を費やしている。 これに加え、新型コロナウィルス感染症の影響がある。具体的には、勤務校では2021年度も多くの授業がオンデマンド授業となり、授業動画・課題の作成等に大幅な時間が必要となった。そのため、研究時間を十分に確保することが叶わなかった。また研究費採択当初の予定では2021年度中のドイツへの渡航を予定していたが、2021年度も渡航中止を余儀なくされたほか、国内の出張等も制約されたため、研究計画への変更が生じた。 しかし、上記の研究実績で示したように、比例原則の具体的な場面に関する考察として、2021年度は、給付に代わる損害賠償の論文を公表し、その過程の中で損害賠償法の場面における比例原則の新たな展開・活用可能性も見出すことができた。さらに、契約法の比例原則の根拠や適用場面などの議論状況に関する研究報告など一定の研究業績を出すことができた。 他方、比例原則の位置づけを探るためのドイツ法の基礎文献(信義則・権利濫用・給付拒絶など)や判例を収集する作業のほか、その一部を精読する作業も進めている。今後の研究の推進方策において後述する通り、日本法学88巻4号に投稿する論文の執筆作業にもとりかかっている。 以上より、全体としてはやや遅れているとの評価を下した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、日本法学88巻4号(2022年9月末締切・2023年2月公表予定)へ投稿する論文の執筆を進める。具体的なテーマ案として、履行請求権の制限を判断する際に給付障害を引き起こした債務者の帰責性がどのように考慮されるのかという問題を構想している。その他に、損害賠償における比例原則を研究する過程で、ドイツ法では動物の治療費用を算定する際に、愛着利益や動物福祉の観点に加え、比例原則を考慮する見解が主張されていることを確認したため、この見解の分析も進めていきたい。 また2021年度に行う予定であった過大な保証の制限などについても既に一定の資料を収集しているため、上記研究の進捗状況も踏まえて、逐次文献精読を行いたい。 他方で、新型コロナウィルスの感染状況を見極めつつ、もし可能であれば、2023年2月~3月頃において、ドイツに渡航し、文献調査・インタビューを実施したい。ただし、新型コロナウィルスの感染状況によっては2022年度も計画の変更が生じる可能性があり、研究期間の延長も視野に入れている。現地への渡航が困難な場合には、現地の研究者とメールで交流を図るなど別途方策を検討する。 これらの研究を通して、ドイツ民法における比例原則の位置づけや機能を具体化し、日本法への示唆を得たい。
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次年度使用額が生じた理由 |
第1に、2021年度に発注したドイツ法の文献のうち、数冊(コンメンタール・教授資格論文)の刊行が2022年度へ遅れたため。 第2に、2021年度の助成金のうち、国内出張として計上していた費用及びドイツへの渡航費として計上していた部分についての支出がなかったため。 研究費の多くは、日本法及びドイツ法(特にコンメンタール、教授資格論文・博士論文)の書籍の購入費用に充てられる。 それに加え、2022年度からは、国内の学会・研究会が対面で開催される機会が増加すると思われるため、国内出張の費用として研究費を支出する予定である。また2022年度中にドイツへの渡航を行えた場合には、その渡航費用として研究費を支出する予定である。
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