研究課題/領域番号 |
20K13380
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
山田 孝紀 日本大学, 法学部, 准教授 (80847434)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 比例原則 / ドイツ民法 / 権利行使の制限 / 信義則・権利濫用 / 利益衡量 / 損害賠償の制限 |
研究実績の概要 |
本研究は、民法における比例原則の位置づけ・適用場面・機能についてドイツ法を比較題材としながら解明することを目的とする。 2022年度は、個別的なテーマとして、交通事故などによりペット(愛玩動物)が負傷し、飼い主が動物の治療費を支出した際、加害者にどの程度の賠償を求めることができるのかという問題を検討した。この問題につき、日本法では、動物の経済的価値に相当する額に賠償額を限定する裁判例がみられた。翻って、ドイツでは、動物が生命をもつ存在であるために、飼い主が動物へ有する愛着利益や動物保護の考え方から、動物の経済的価値を大幅に上回る治療費の賠償が認められていることが明らかとなった。他方で、賠償額について一定の制限を設ける考え方も示されていた。その際の根拠として、ドイツ民法251条2項2文の立法資料や改正後の法状況においては比例原則(相当性の原則)に着目する見解がみられた。この研究は、比例原則自体を扱うものではないが、信義則の下に位置づけられる比例原則が果たす機能を示す一端となるものである。この成果は、日本法学88巻4号に投稿した。 その後、比例原則の意義を明らかにするために、文献精読に取り組んだ。具体的には、ドイツでは履行請求権の限界の判断において比例原則が用いられるところ、債権者の利益と債務者との不利益との衡量過程を示す論文、私人の過大な形成権の制限に関して比例原則を用いる論文、EU法の視点から私法と公法の比例原則の融合理論を説く論文などを精読した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの研究において、比例原則が民法領域において用いられる個別場面の検討については行うことができている。その成果について研究会での報告に加えて、論文として公表していることから、研究の一定の進展はみられると評価しうる。 他方で、比例原則の基礎理論に関する研究については、上記研究実績の概要で示した文献精読に取り組んでいる一方、文献精読に時間を要している。昨年度もコロナ禍による感染症対策を踏まえた研究活動を余儀なくされたことも影響し、当初の予定より研究活動が遅れている状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
第1に、債権者の権利行使の限界判断において比例原則を通じてどのような衡量過程が行われるのかを明らかにしていきたい。この成果の中間報告として、2023年6月に学外の研究会での報告を予定している。それを踏まえ、大学紀要へ研究成果を投稿できるように研究を進展させる。第2に、上記研究活動にて記載の通り、比例原則の基礎理論に関する文献精読を本年度も引き続き行う。第3に、2023年度は、ドイツへの渡航を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度は同年冬ごろまで新型コロナ感染症の感染状況が悪化していたことに加え、学内業務の都合も重なり、国内の出張が少なくなり、ドイツへ渡航することができなかった。 また研究の進捗状況がやや遅れていたことから、科研費の研究活動の延長を視野に、2023年度の研究活動に使用するために科研費を計画的に残した。このことも科研費の残額が生じた要因である。 2023年度は、書籍の購入費に加え、新型コロナ感染症に対する規制が緩和したことから、国内の学会等への移動費・ドイツへの渡航費等として科研費を使用することを予定している。
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