研究課題
2022年度の研究業績は以下のとおりである。1. デジタルアーカイブ等の文脈において、美術作品の複製写真の取扱いは重要な論点であり、前年度に引き続いて今年度もドイツをはじめとするEUの議論を検討した。EUのデジタル単一市場における著作権指令14条では、パブリックドメインにあるビジュアルアートの複製につき原則著作権・隣接権の対象外とする規定を設けている。他方、一部のEU諸国では単純な写真の隣接権による保護を認めており、特にドイツでは、パブリックドメインにある美術作品の複製写真は著作権法72条による保護を受けるとする判決が2018年に出ている。この点、関連する評釈やEU指令14条との関係について書かれた論考を分析した。2. AI生成物の創作性に関する議論について、特に年度後半はChatGPTやStable Diffusion等をはじめとする生成AIの急速な技術発展に伴い、一気に注目を集めた感がある。今年度は、AI生成物の創作性に関連して、特に写真の創作性判断とのリンクを探ることを試みた。アメリカでは、生成AIによって作成された画像の著作物性に関する判断で、写真の著作物性判断におけるリーディングケースを参照した箇所があり、この点について検討を行った。以上の2点につき論文を執筆中であり、うち一本は投稿中である。学会発表も予定していたが、年度後半に研究代表者がCOVID-19に罹患し、その後も体調不良が続いたため、発表を見合わせた。研究期間終了後ではあるが、2023年度に学会発表を計画している。研究期間全体を通じて実施した研究の成果は、論文としての公表のほか、一部は博士論文に挿入し、近いうちに博士号取得及び単著の公刊を予定している。写真の創作性に関する研究は国内・国外を見ても少なく、広く機械を用いた創作と著作権について検討する際にも重要な成果である。
本研究に内容が関連する英語書籍(Paul Goldstein, Copyright's Highway. From the Printing Press to the Cloud, Second Edition, Stanford Univ. Press, 2019.)を共同で翻訳した。近刊予定である。