令和5年度は、立法政策における原因者負担原則の機能に関する分析を進めた。具体的には、プラスチック廃棄物の削減およびプラスチック資源の循環的利用を担う責任主体を立法者が選択する際の議論に着目した。環境中に放出されたプラスチックごみが景観を損ねたり生態系に悪影響を及ぼしたりする場合、実際に当該プラスチックを環境中に放出した者を特定することはきわめて困難であることから、直接の原因者に対策の物理的責任および費用負担責任を追及することは通常見込めない。この点、ドイツでは2023年5月に成立した「使い捨てプラスチック基金法」は、特定の使い捨てプラスチック製品を最初に上市する者に対する課税、その税収から成る基金の設立、および、公的廃棄物処理当局等がプラスチックごみ対策に要した費用の基金からの償還を制度化したものであるが、これはプラスチックごみの清掃費用にいたるまで原因者負担原則に則した費用配分を実現したものとして注目されている。このように一定の潜在的原因者集団を対象とした経済的誘導や規制もまた、原因者負担原則の文脈で語られ制度化されていることから、現代における複雑な環境問題への対策にも原因者負担原則が重要な役割を果たしうると考える余地がある。原因者負担原則は、「原因者」を一義的に定義できないことや、その実現が立法者の裁量に委ねられていることから、それ自体の内容が空虚であるという批判が向けられてきたが、この点に関しては、軸となる理念が不動であることを前提に柔軟に機能しているとみるべきであると考える。
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