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2020 年度 実施状況報告書

税制改革の比較政治ー日本とニュージーランドを中心にー

研究課題

研究課題/領域番号 20K13396
研究機関東京大学

研究代表者

田中 雅子  東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任助教 (10842148)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワード税制改革 / 専門家 / ニュージーランド / 審議組織 / 連立政権
研究実績の概要

本研究では税制の審議組織に注目し、日本とニュージーランドの税制改革を比較する。日本の税制改革が難航するのに対し、ニュージーランドでは増税を含む税制改革に何度も成功している。税制に関する専門知識が政策帰結に与える影響を比較の観点から明らかにすることが目的である。
専門家による税制の審議組織は、ニュージーランドの場合、日本のように常設の審議会ではなく、政権が必要に応じて設置するのが特徴である。戦後主要な審議組織の提言として1967年Ross report、1982年McCaw report 、2001年 McLeod reportがある。2009年、2017年にはTax Working Groupという審議組織を設置し、有識者を中心に税制改革の審議と提言を行った。しかし、国民党政権と労働党政権では、Tax Working Groupの運用方法が異なっており、さらに連立パートナーとの関係から提言の採択状況にも違いが生じている。
政権交代によって審議組織の運用方法に違いがみられるのは、日本も同様である。2009年民主党政権は、従来の政府税制調査会と自民党税制調査会の二元的体制を批判し、政治家を主体とする政府税制調査会に一元化した。2012年自民党の政権復帰後は、政府税制調査会が政治決定と棲み分けする形で機能している。専門知識を政策決定にどのように活用するのかという点において、税制の審議組織のあり方は依然としてわが国の課題である。
専門知識を政策過程にどの程度埋め込ませるかという観点から、税制の審議組織の二国間比較を行っており、初期の研究成果として2021年度に学会報告を準備している。海外への発信も視野にいれ、英語による発表にも取り組んでいるところである。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

新型コロナウィルスにより2020年9月ニュージーランド総選挙に照準をあわせた現地調査は断念せざるを得ず、研究の進捗はやや遅れている。しかしながら、ニュージーランドの税制審議は資料が広く公開されており、発表資料やワークショップの議論、議事録の調査については、入念な作業を行うことができた。資料の分析からは、政権によって審議組織の運用及び提言の活用に大きな違いがあることがわかった。
1967年Ross reportと1982年McCaw reportでは、審議委員に十分なデータが提供されておらず、専門家の意見に対する実効性は担保されなかった。2001年 McLeod reportでは詳細な提言を行ったものの、労働党カレン財務相は選挙で有権者の付託がないままの税制改革に否定的な見解を示した。審議組織の提言が政策に効果的に発揮されたのは2009年国民党政権下のTax Working Groupである。審議組織はヴィクトリア大学を拠点に税制の専門家によって構成され、利害関係者を含めなかった。財務省と歳入庁も委員に加わり、政治過程に専門知識が埋め込まれたことにより、政治的な妥協を極小化する。しかし2017年労働党政権下のTax Working Groupは、元財務相をトップに据えて審議が行われたものの、専門知識は政治過程に埋め込まれることなく、結局労働党の公約した税制改革は連立パートナーの意向により採択されなかった。
以上のように文書資料から審議組織の変遷を概観できるものの、専門家と政治との関係、利害関係者との調整、国民の理解など肝心な情報は得られていない。今後の状況は見通せないが、現地調査は引き続き困難であると想定され、代替的にオンラインでの面接取材やメールでの交渉をとりいれることを検討している。

今後の研究の推進方策

今後の研究方策は大きく分けて二つある。
第一に、ニュージーランドの税制に関する審議組織と政党政治との関係である。審議組織が単に有識者からの提言で終わるケースと、全面的に政策に取り入れられるケースとでは何が異なるのか、審議組織のメンバー構成や運用形態を日本と比較しながら分析を行う予定である。議会の議事録や政党の発表資料など、文書資料を中心に検討する。
議事録については資料を整理している段階であるが、通時的に共通するキーワードや共起性を見出し、審議組織で行われる議論の傾向を定量的に把握したいと考えている。まずは日本の議事録から作業をすすめたい。
第二に、税制に対する国民の理解である。日本では有識者による審議組織であれ、政党の税制審議であれ、国民から増税に理解を得るには高いハードルがある。翻ってニュージーランドにおいて税制の審議組織で行われる議論の公開性は高く、増税を含む税制改革にも有権者から一定の支持が得られている。審議組織の運営や発信にどのような工夫があるのか、手掛かりを見つけていきたい。
今年度も新型コロナウィルスの影響により海外の資料収集には困難が予想される。入会した日本ニュージーランド学会から助言を仰ぎつつ、研究を遂行してまいりたい。

次年度使用額が生じた理由

新型コロナウィルスの拡大により海外渡航が中止となり、旅費と謝金の使途が今年度はなくなったため。

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公開日: 2021-12-27  

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