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2022 年度 実施状況報告書

税制改革の比較政治ー日本とニュージーランドを中心にー

研究課題

研究課題/領域番号 20K13396
研究機関東京大学

研究代表者

田中 雅子  東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任助教 (10842148)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2024-03-31
キーワード専門家会議 / 税制改革 / ニュージーランド / タックス・リポート
研究実績の概要

本研究は税制の専門家会議に注目し、日本とニュージーランドの税制改革を比較する。専門知識が政策帰結に与える影響を、比較の観点から明らかにすることが目的である。令和4年度は研究成果を内外に発信することができた。
第一に、日本とニュージーランドの税制専門家会議を比較した研究では、専門家会議のメンバー構成、政府からの委任内容、専門家会議の議論の透明性が税制改革に与えた影響を明らかにした。具体的には、メンバーが専門家で占められている場合は理論的一貫性が志向され、利害関係者が含まれている場合には実務的な提言となることが確認された。また政府から専門家会議への委任が包括的なほど体系的議論が行われることを、両国専門家会議の最終リポートから実証した。最後に専門家会議の議論が透明であるほど、有権者が税制改革を受け入れやすい傾向も示された。研究成果は「日本ニュージーランド学会誌」(近刊)に掲載予定である。
第二に、日本の専門家会議である政府税制調査会については、通時的な議事録分析を行い、変化の動態を確認した。情報公開請求で入手した議事録からは、大学等学識者の発言は必ずしも多くないこと、官僚の発言割合は減少し役職階層が低下していること、政府からの諮問文字数が少ないほど政策アジェンダは包括的であることが明らかになった。本内容は2022年日本政治学会で発表を行った。
第三に、日本の政党政治と租税政策との関係について、Women of International Fiscal Study Networkや公益社団法人日本租税研究協会で講演を行い、海外の研究者や国内の実務家とも意見交換を行うことができた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

まず、新型コロナウィルス感染症拡大により在外調査ができず、研究期間を一年延長した。2022年8月からニュージーランドは国境を全面再開したものの、代表者自身の研究機関の異動もあってスケジュール調整が難航している。最終年度である今年度中に現地調査を行い、研究成果につなげられるよう準備したい。
他方で文書資料の調査は、一定の進捗をみせた。日本については、政府税制調査会総会の議事録を情報公開請求により入手し、発言回数や官僚発言者の職位、議事内容について分析をすすめることができた。非公開となった資料もあるため、公開資料に何らかのバイアスがある可能性は排除できないが、出身母体による関心分野の濃淡や、議事運営に対する委員からの意見、事務局である大蔵(財務)省・自治(総務)省の関係など、新たな知見も得られており、当時の政治状況と照合することで、議論の実態を詳らかにできると考えている。
ニュージーランドについても、専門家会議の議事過程が一定程度わかる資料や最終リポートの分析は行うことができた。ニュージーランドではタックスリポートの歴史が長く、専門知識は蓄積されていたこと、しかしながら実際の政策に生かされることは稀であったことも分かった。ニュージーランドではGSTを導入した1980年代労働党政権と、GST引き上げを行った2008年以降の国民党政権が税制改革の成功例とされる。成功例については資料が豊富であるのに対し、失敗例の資料は乏しい傾向にある。専門家会議の提言が生かされず、税制改革に結びつかなかった事例の解明が目下の課題である。

今後の研究の推進方策

まず日本については、第一に議事録分析である。これまで本研究では政府税制調査会総会の議事録分析を網羅的に試みたものの、具体的な議論は総会のもとに設置された部会や小委員会で行われている。部会や小委員会の議事録についても情報公開請求を行い、議事内容の分析を行う必要がある。
第二に委員へのインタビューである。戦後から昭和期は、政府税制調査会に携わった専門家や官僚が、当事者として詳細な記録を残している。これに対し平成以降は、政府税制調査会の運営自体も変化し、政治的配慮もあってか、政府税制調査会当事者の証言記録は少ない。総会の議事内容がインターネットで公開されるようになったために、別途の証言が不要になったとの見方も可能でろう。しかし公開を前提に話される議論と、公開の議論の裏で行われていると推測される、裏会議や会議の段取り、関係者との調整等は、議事録からうかがい知ることのできない貴重な情報である。本研究では、公開を前提に作成される議事録からは、否が応でもこぼれ落ちる政策過程を捉えるためにも、関係者への面接取材を行っていきたい。
次にニュージーランドについては、第一に専門家会議の動態である。専門家会議の発足から解散までの一連の過程と、政権との関係を追跡する。専門家のメンバー構成は誰によって決められるのか、専門家への委任内容、議論の進行、中間リポートや最終リポートのとりまとめは、一体どのように行われるのか。関係者への面接取材から明らかにしていきたい。
第二に、税制に対する国民の理解である。日本では増税に対して国民の理解を得るのは、至難の業と考えられている。翻ってニュージーランドでは、政策過程の透明度が高く、増税を含む税制改革にもこれまで有権者から一定の支持が得られてきた。専門家会議の発信や有権者との意見交換にどのような工夫があるのか、手掛かりを見つけていきたい。

次年度使用額が生じた理由

新型コロナウィルス感染症拡大により予定していた在外調査ができず、次年度に繰り越すこととなった。研究機関の異動により2023年度在外調査日程を現時点では確保できていないが、資料収集と関係機関との連絡調整を行っているところである。
インターネット経由で入手できる資料には限界があるため、在外調査の計画を周到に立てたうえで、資料の収集とネットワークの構築を行っていく予定である。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2022

すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)

  • [雑誌論文] 政党政治と租税政策2022

    • 著者名/発表者名
      田中雅子
    • 雑誌名

      租税研究

      巻: 877 ページ: 6-39

  • [学会発表] Building consensus on tax reform : party politics under the coalition governments in Japan2022

    • 著者名/発表者名
      Masako Tanaka
    • 学会等名
      Women of International Fiscal Study Network
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 政党政治と租税政策2022

    • 著者名/発表者名
      田中雅子
    • 学会等名
      公益社団法人日本租税研究協会
    • 招待講演
  • [学会発表] 議事録分析による政府税制調査会の変化2022

    • 著者名/発表者名
      田中雅子
    • 学会等名
      日本政治学会

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公開日: 2023-12-25  

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