研究課題/領域番号 |
20K13396
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研究機関 | 流通経済大学 |
研究代表者 |
田中 雅子 流通経済大学, 法学部, 准教授 (10842148)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 税制改革 / 専門家会議 / 政府税制調査会 / 政官関係 / タックス・リポート |
研究実績の概要 |
本研究は日本とニュージーランドの税制改革を比較し、専門知識が政策帰結に与える影響を比較の観点から明らかにすることを目的とする。令和5年度はいくつかの研究成果をあげることができた。 第一に、日本とニュージーランドの税制専門家会議を比較した研究では、専門家会議の会長と委員の構成、政府からの委任の程度、専門家会議の議論の透明性が税制改革に与えた影響を明らかにした。研究成果は査読を経て「日本ニュージーランド学会誌」第30巻(2023年8月刊行)に所収されている。 第二に、日本の専門家会議である政府税制調査会について総会議事録の分析を行った。政府税制調査会が法制化された1959年から2023年まで、情報公開請求を通じて入手した議事録を用い、発言者、発言回数、会長による議論のとりまとめに着目し、変化の動態を確認した。分析からは、会長の発言割合が増加していること、官僚の発言割合は減少し役職階層が低下していること、会長によって議論をとりまとめる方法に違いがあることが明らかになった。研究成果は学会誌で近日公刊予定である。 第三に、学会発表を二件おこなっている。日本公共政策学会では「税制による不利益分配1959年-1990年」として、税制による不利益分配のパターンを類型化し、日本比較政治学会では「複合危機と日本の財政金融政策」と題し、新型コロナとウクライナという2つの危機に対し日本の財政金融政策を検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
日本の専門家会議である政府税制調査会については、総会議事録の分析から通時的な変化を定量的にも定性的に把握することができ、一定の成果を得ている。現在総会のもとに設置された部会や小委員会についても議事録の情報公開請求を行っており、専門家の果たす役割について、より精度の高い研究を行う準備をすすめている。 他方で比較対象国のニュージーランドについては、未だ現地調査を行うことができず、進捗が遅れている。理由としては、2024年2月の渡航予定を、家族の入院及び手術により延期したためである。ニュージーランドでは2023年10月に総選挙があり、労働党から国民党に政権交代している。連立政権の構成も変化しており、税制については連立与党各党の選挙時の公約に基づき、所得税の限界税率ブラケットの変更やOECD第1の柱グローバル・ミニマム課税、第2の柱デジタル課税への対応が行われているところである。 専門家への委任の内容や程度は、政権によって異なる可能性があり、文書資料のみからは析出できない変化の動態を探り、資料を収集する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
まずニュージーランドについては、第一に税制改革の政策過程分析である。国民党と労働党はこれまで所得税のあり方をめぐって対立関係にあり、政権交代のたびに税率が変更されてきた。選挙公約に基づいて政党間競争が繰り広げられているようにみえるが、政党の公約ができるまでの党内の議論や専門家との関係については、管見のかぎり研究が十分でないように思われる。国民党と労働党はTax Working Groupを設置して税制改革の議論を推進してきたものの、専門家のメンバー構成は誰によって決められるのか、専門家に委任する内容は何か、最終成果のとりまとめと政権による採否がどのように行われるのかを明らかにしたい。 第二に、連立政権の構成が税制改革に与える影響である。ニュージーランドでは1996年混合議席比例制が導入されて以降、連立政権が常態化しているが、2019年労働党政権では連立パートナーの意向により看板政策となるはずだったキャピタルゲイン課税が頓挫している。連立政権の場合、どのような条件で改革が推進されたり頓挫したりするのか、分析をすすめたい。 次に日本については、政府税制調査会の部会や小委員会の議事録分析である。部会や小委員会は、一定の専門性を要する特定の課題を議論するため総会の下に少人数で設置される会議体であり、そもそもどのような場合に設置するのか、小委員長なり部会長とメンバーをどのように選定するのか、総会との接続をどのように行うのか、については必ずしも明らかではない。部会や小委員会の中には、参加者に制限を設けず総会と変わらぬ構成になったものもあり、専門家への委任が成功したケースとそうでないケースがあると思われる。部会・小委員会を効果的に設置する条件を探ることにより、審議会運営全般に対する知見を見出していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
第一に、2023年度に実施予定だった在外調査が延期となったためである。 第二に、情報公開請求をしている文書の開示が2024年5月となり、高額な開示実施手数料の支払いが見込まれるためである。
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