本研究の目的は,日本の労働基準監督行政における臨検監督の実施回数や臨検を実施する行政職員の専門性を反映する人事に関する公開データを用いて,臨検監督の効果を検討することにあった.本研究の当初計画では,厚生労働省労働基準局が毎年度発行する『労働基準監督年報』を使用して臨検監督の実施回数のデータを収集し,労働新聞社が発行する『労働行政関係職員録』などを用いて人事データを収集する予定であった.しかしながら,研究代表者が東京から沖縄へ所属機関の異動をしたことや,新型コロナウイルス感染症の蔓延によって予定通りに研究を遂行することが困難であった. 他方において,本研究が目的とした労働基準監督行政における臨検監督の効果の検証には,まずもって日本の労働基準監督行政の歴史的な展開を把握することが肝要である.すなわち,前年度までの本課題の研究成果から,日本の労働基準監督行政は,諸外国とは異なる組織的特徴を持っており,諸外国で積み重ねられてきた労働基準監督行政の臨検監督の効果に関する研究をそのままに,日本の事例に適用することは適切ではないことが示唆されたからである.そこで最終年度となる2022年度の研究活動としては,日本の労働基準監督行政の組織的特徴を析出する作業に注力し,研究成果として公表を行った. このように進められてきた本研究から,研究期間全体を通して得られた成果は,以下3点に求められる.第一は,日本における労働基準監督行政研究の希少性である.諸外国とは対照的に,日本では臨検監督の効果に関する研究はおろか,労働基準監督行政に関する基礎的研究も進んでいない.こうした状況を踏まえ第二は,日本の労働基準監督行政組織は,諸外国とは異なり,労働安全衛生分野を専門分化させずジェネラリスト型の監督体制を敷いている.第三に,こうした組織体制は戦前・戦後の当該行政分野における歴史的経緯に求められる.
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