最終年度では、第一に、18世紀のドイツ語圏で活動したポリツァイ学者であるヨハン・ハインリヒ・ゴットロープ・フォン・ユスティについて、特にその歴史叙述や歴史認識の観点から研究を行った。これまでユスティについてはポリツァイ学を理論的に体系化した著作が主な研究対象となってきたが、歴史を扱った著作もかなりあり、そこにはユスティが18世紀という同時代を歴史のなかでどのように認識していたのかが現れている。ユスティは「歴史は生の教師である」という伝統的な喩法を採用せず、むしろ、現代は過去のヨーロッパとは激しく断絶しており、過去を解釈して現在の行為・政策を正当化しようとすることは困難であるということを、歴史叙述を通じて批判的に明らかにしている。本研究では特に『商人貴族と軍人貴族の対立』(1756)と『ヨーロッパの均衡というキマイラ』(1758)を対象に、ヨーロッパの歴史が新世界の発見と商業の発達を経て大きく変貌し、過去がもはや現在と未来をそれまでのようには照らさないとするユスティの歴史認識を確認した。最終年度で行った第二の研究は、三月革命期の政治学者・行政学者のポリツァイ認識である。23年2月にフランクフルトに滞在し、大学図書館で一次・二次文献を渉猟することができた。この点はしかし、いまだ論文として成果をあげることはできていない。研究期間全体としてみた場合、新型コロナウイルスによる混乱のため、大学の教育活動・その他の業務に割く時間が予想外に多くなり、18世紀のポリツァイ学研究についてはユスティを中心に一定の成果をあげることができたものの、19世紀前半のポリツァイ学については本格的に取り組むまでには至らなかった。特に、フランス革命と神聖ローマ帝国の崩壊を経てポリツァイ学がどう変貌したのか、そしてポリツァイと自由がどのように理論的に関係づけられたのかといった問いについては、今後の課題としたい。
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