研究課題/領域番号 |
20K13412
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
石野 敬太 早稲田大学, 政治経済学術院, 助手 (40844519)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アリストテレス / 政治哲学 / 幸福 / 観照 / 実践 |
研究実績の概要 |
令和2年度は、西洋政治哲学の起源であるアリストテレスの政治哲学における「幸福(エウダイモニア)」概念の検討を行なった。特に本研究は、アリストテレスが最善の国制論を中心的な論点として取り扱っていると一般に考えられる『政治学』第7巻の議論に着目した。その第1章の冒頭では、最善の国制についての議論の出発点として、人間と国家(ポリス)にとっての最善の生の内容を明らかにする必要性が述べられている。本研究は、特に後者に焦点を当て、アリストテレスが『政治学』第7巻第1章から第3章にかけて人間とポリスにとっての最善の生にどのような具体的内実を付与しているのかを考察した。さらに本研究は、『政治学』第7巻第4章以降の議論を参考にしながら、「人間(アントローポス)」の用例を分節化した。 こうした研究をもとに、本研究は以下の点を明らかにした。①アリストテレスは文脈に応じて「人間」を「個人」と「市民」の意味で用いていること。②アリストテレスが「個人としての人間」が活動する領域として哲学の領域を確保し、そして「市民としての人間」が活動する領域として政治の領域を確保されていること。③「個人としての人間」が従事する哲学的な生が人間にとっての最善の生とされ、また「市民としての人間」が活動する領域として政治がポリスにとっての最善の生を構成すること。かくして、アリストテレスは『政治学』において二つの異なる人間像を提起しつつも、それらを二律背反的に捉えるのではなく、一方の人間像に哲学を、他方の人間像に政治をその活動領域として割り当てていることが論証された。 以上の研究成果の一部は、『平等の哲学入門』(2021年、社会評論社)に反映され、また古代政治哲学関連で有力な英文の学術誌に論文を投稿し、査読中である。また、2021年3月にオンラインで開催された『政治哲学研究会』にて口頭発表を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
令和2年度の研究計画ではアリストテレスの『政治学』第7巻を検討することが主眼であったが、その計画に加えて、『政治学』第1巻でアリストテレスが提示する「人間は自然的に政治的動物である」という有名な命題に関する考察も行い、その研究成果について学会発表を行なったので、研究計画以上に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、アリストテレス政治哲学における幸福概念の内実を明らかにするために、以下の二つの作業を中心に行う。(1)令和2年度の研究成果の観点から『ニコマコス倫理学』第10巻での議論を読解し、アリストテレスの幸福概念の全体像を統一的に把握すること。(2)『エウデモス倫理学』第8巻の研究を行い、哲学という営みの政治性ないしポリスの部分としての位置付けについての研究を行うこと。 以上二つの作業を行うことで、アリストテレス政治哲学の骨幹をなす幸福の成立における哲学と政治の位置付けを明らかにするとともに、アリストテレス政治哲学において「善く生きる」ということがどのような生のあり方として捉えられていたのかを探究することが今後の課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では国際学会での発表を行う予定であったが、新型コロナウィルスのため学会が開催されず、また、国内学会もオンライン開催となり渡航費等が発生しなかったため、次年度使用額が生じた。令和3年度も学会が開催されるかは不透明な状況だが、国際学会、国内学会が開催されたらその出張旅費として使用する予定である。
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