当該年度では、富山県(2回)と香川県(1回)への研究出張を実施した。いずれも主な目的は南原繁に関する資料の調査にある。 まず、富山県における資料調査では、射水郡長時代の南原に関して前年度までの調査を更に進めた。特に、県立図書館所蔵の郷土新聞(南原在任中の記事)の調査を進めた。これについて、おおむね調査を完了した。 また、香川県における調査は、上の射水郡の事業(特に教育事業)の背景を知る上で重要な課題と位置づけ、実施した。研究協力者の案内により、諸関係者と面会、情報・意見交換を深めることができたほか、従来、南原研究者の間でもほとんど認識されていなかった原資料の存在を確認できた。これにより、射水郡の事業を進めた南原の思想的背景に迫ることができるだけでなく、その後の南原の哲学・思想を方向づけた契機を明確にすることができると思われる。ただし、この原資料は幾つかの種類が認められると共に、厖大な量に及ぶため、研究主題を新しく設定し直し、集中して取り組む必要がある。 なお、上の富山県での資料調査を通じて、射水郡の事業の背景に、中村春二(成蹊学園創立者)の存在があることも確認できた。これをうけて、成蹊学園史料館にて資料調査を実施、従来知られていなかった南原の資料を確認した。 当該年度では、成果として、1920年代~戦後の南原の社会科学研究とその思想とをまとめたものを、著書として発表した。また、これまでの出張調査の結果として、射水郡長時代の南原について、詳細な年譜と資料(翻刻)という形でまとめた。原稿はほぼ完成しており、資料所蔵機関ならびに著作権継承者の了承も得、現在、発表媒体の関係者とレイアウト等について相談中の状況である。なお、前年度までに調査を終えていた南原発信の翻刻も7割程度完了しており(所蔵機関・著作権継承者も了承済)、2025年夏の公表を予定している。
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