研究課題/領域番号 |
20K13423
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中村 長史 東京大学, 教養学部, 特任助教 (80793710)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 国際政治 / 紛争研究 / 平和構築論 / 軍事介入 / 出口戦略 |
研究実績の概要 |
戦争は始めるよりも終わらせる方が難しいと言われるのは、なぜか。例えば、米国は2001年に介入したアフガニスタンにおいて2020年現在も駐留を継続している。この点につき、本研究代表者は「出口戦略のディレンマ」という概念を提起してきた。介入の正当化を容易にする「介入目的の多義性」は、何をもって目的達成といえるかを判断する基準を複数生じさせることから、撤退の正当化を困難にするという論理である。では、介入国は、「出口戦略のディレンマ」を抱えているにもかかわらず、なぜ、そもそも介入を決断するのだろうか。この新たな問いに対し、「二層ゲーム」と呼ばれる議論を発展させることで答えようとするのが、本研究である。 具体的には、「介入時には対内正当化がより重要であるが、撤退時には対外正当化がより重要となるため、『出口戦略のディレンマ』を抱えることになる」という仮説を立て、活動主導国(米国)・活動参加国(英国・日本)の介入・撤退決定過程に関する事例分析によって検証する。二層ゲームに関する既存の研究は、ゲーム理論による議論の精緻化と事例分析の蓄積による議論の適用範囲の確認を中心に進んできた。一方、本研究では、時期によって対内正当化の重要度と対外正当化の重要度が逆転することを示すことで、二層ゲーム論の議論自体を問いなおし発展させることを目指す。 以上の内容について、以下の3つの段階を踏んで研究を進める。第1段階(2020年度)では、活動主導国(米国)の介入・撤退決定過程を分析する。第2段階(2021年度前半~22年度前半)では、活動の一参加国の介入・撤退決定過程を分析する。第3段階(2022年度後半)では、研究成果をまとめるとともに、他の政策領域への応用可能性を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度となる2020年度の計画は、活動主導国である米国の平和活動について、「対テロ戦争」型の事例としてアフガニスタン(2001年~)、イラク(2003年~2011年)、「人道的介入」型の事例としてソマリア(1992年~1994年)、ボスニア・コソボ(1995年~)を分析することであった。このうち、アフガニスタン、イラク、ソマリアについては予定通りの進捗があり、ボスニア・コソボについてはコソボに関する分析に甘さが残っているものの、おおむね予定通りに進展しているといえる。 事例分析の結果によっては、仮説を適宜修正していくことを想定していたが、現時点では、その必要は認められない。一方、国連関係者への聞き取り調査が新型コロナウィルス・パンデミックの影響により実現しなかったことは、コソボに関する分析の甘さにつながっている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、2段階に分けて研究を進めていく方針である。まず、①甘さが残っているコソボに関する事例分析をボスニアと同じレベルにまで深める。 そのうえで、②活動主導国のみならず一参加国についても、上記の事例について分析する。最初に、ジュニア・パートナーとして活動に参加することが多い国として日本を採りあげる。自衛隊海外派遣をめぐる論争の整理という文脈では扱ったことがあるため、また日本語文献が豊富なため、参加国についての分析の最初に扱う。次に、より多くの事例に参加しており、自らが主導国ともなり得る国である英国を採りあげる。英国については部分的に扱ったことがあるのにとどまるため、より時間を割いて分析する。 なお、現時点では主導国・参加国にかかわらず上記の仮説で説明がつくことを想定しているが、参加国について異なる論理が働いていた場合には、そのような差異がなぜ生まれるのかという問いを新たに立てて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス・パンデミックの影響によって、参加予定の学会がオンライン開催になったり、聞き取り調査を中止せざるをえなかったりした。今後もパンデミックの状況を注視しつつ、使用していく予定である。
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