研究課題/領域番号 |
20K13429
|
研究機関 | 名桜大学 |
研究代表者 |
志田 淳二郎 名桜大学, 国際学部, 准教授 (90782318)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | ウィリアム・クリントン政権 / NATO東方拡大 / アメリカ外交史 / 国際関係史 / 国際関係理論 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、冷戦後の旧ソ連圏地域秩序の再編をめぐるウィリアム・クリントン政権の外交政策の実態を実証的に明らかにすることである。当時のクリントン政権は、旧ソ連圏地域秩序の再編に関して、主として以下の3つの課題に対応する必要があった。すなわち、第一に、冷戦後の安定的な米露関係の模索、第二に、ウクライナの非核化問題、そして第三に、NATO(北大西洋条約機構)の東方拡大である。 2021年度は、上述の三つ目の課題である冷戦後のNATO東方拡大に関する研究書籍・論文を渉猟した。その結果、冷戦後のNATO東方拡大に関しては、1990年代には国際関係理論の観点から、2000年代後半以降は、米国外交史研究の観点から先行研究の蓄積が進んでいることが明らかとなった。2021年度は、こうした二つの研究領域にまたがる冷戦後のNATO東方拡大に関する先行研究を詳細に検討し、当時NATO東方拡大について外交・安全保障上の課題が複数存在していたことを明らかにできた。 これに加えて、2000年代後半以降、蓄積の進む米国外交史研究のうち、冷戦後の米国のNATO東方拡大政策の起点を、ジョージ・H・W・ブッシュ政権に求める「修正主義」的研究を各種史資料から多角的に検討し、従来の「正統主義」的研究が指摘する冷戦後のNATO東方拡大については、クリントン政権で本格化したという通説的理解を採用することが妥当であるという結論に至った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度はおおむね順当に研究を遂行できた。当初計画では、新型コロナウイルスの世界的感染拡大を想定していなかったため、米国に所在する複数の公文書館での史料調査を予定していたが、2020年度以降のコロナ禍により、米国での史料調査を断念せざるを得ない状況が続き、こうした状況は2021年度も継続した。 とはいうものの、未公刊史料の渉猟は本研究においては決定的に重要であることから、2021年度は、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領図書館のデータベースを申請者が所属する研究機関附属の図書館に導入し、またウィリアム・クリントン大統領図書館が充実させているオンライン上でのデータベースから各種史料を閲覧・ダウンロードすることにより、コロナ禍による米国渡航が困難な状況を克服し、関連史料の収集・解析・データベース化の作業を滞りなく遂行することができた。 さらに、2020年度に遂行した研究活動で得た知見を論文や学会・研究会報告等の機会を利用し、広く国民・社会に公開することも達成できた。以上のことから、2021年度の研究進捗状況を「おおむね順調に進展している」と自己評価するに至った。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度に該当する2022年度は、研究開始年度(2020年度)に入手した本研究課題に関する研究書籍・論文等の二次資料及び一次資料、二年度(2021年度)に米国の複数の公文書館からデータベースを経由して入手した各種未公刊一次資料等について、引き続き解析・データベース化の作業を続け、冷戦後の安定的な米露関係の模索並びにウクライナの非核化問題をめぐるクリントン外交の実態を、NATO東方拡大政策と関連付けながら実証的に解明する作業を行う予定である。 これまでの二年間の研究活動をする過程で、クリントン政権は冷戦後の旧ソ連圏地域秩序再編について、NATO加盟を希望していた中東欧(ポーランド、ハンガリー、チェコ等)地域を米国のヨーロッパ・ユーラシア外交の最優先地域として認識していたわけではなく、ソ連解体後の民主化・市場経済化に乗り出したロシアと民族紛争が多発していた旧ユーゴスラビアの間に位置する地域として中東欧地域を捉えていたと指摘する研究書籍の視点の重要性に気が付いた(Nicolas Bouchet, Democracy Promotion as US Foreign Policy: Bill Clinton and Democratic Enlargement, Routledge,2015)。2022年度はこうした視点を意識しつつ、冷戦後の旧ソ連圏地域秩序再編をめぐるクリントン外交の実態について実証的に解明していく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初計画であった米国への渡航がコロナ禍により2021年度に遂行できなかったため、2021年度に配当された金額を全額使用できなかった。残余分については、2022年度分に合算し、物品購入費等に充当する予定である。
|