研究課題/領域番号 |
20K13442
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研究機関 | 愛知大学 |
研究代表者 |
石田 周 愛知大学, 地域政策学部, 助教 (50823910)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | MiFID / 株式市場 / 金融機関 / 内部化 / 証券取引所 |
研究実績の概要 |
2020年度は、EUの証券市場(主に株式市場)やそこで業務を行う金融機関や証券取引所に関する資料やデータ、および、金融機関等が自らの選好を提示する「ポジション・ペーパー」の収集を行い、金融機関等がEUの規制に対して持つ選好を特定することを試みた。なお、金融機関に関するデータの一部は収集が叶わず、この点で進捗状況と研究資金の使用に影響が出ている。 2020年度の研究を通して、以下の点が明らかになった。 第1に、MiFID交渉の前提として、1990年代にEUの株式市場で大きな変化が生じた。基本的な変化は、EUにおける株式取引自体が大幅に増加したことである。大陸欧州の銀行はロンドンのマーチャントバンクを買収することで投資銀行業務に参入し、英米の銀行とともに、ロンドンを拠点として各証券取引所にリモートアクセスした。また、特に英独の銀行は取引の「内部化」(証券取引所を介さず、投資銀行の「社内」で執行される取引)を拡大した。他方、証券取引所も株式会社化し、営利を追求する組織へと変貌した。その結果、EUの株式市場では、欧米の大手金融機関と証券取引所の間で、株式取引の仲介を巡る激しい競争が行なわれた。 第2に、EUにおける株式市場の変化を反映し、大手金融機関と証券取引所は異なる選好をもつことになった。金融機関は、国際的な投資銀行業務を円滑化するために株式取引ルールの調和を求めると同時に、広く内部化を可能にするために集中義務(株式取引を証券取引所に集中する義務)の廃止を求めた。これに対し、証券取引所は、株式取引の仲介業務を確保し続けるために集中義務の維持を求め、仮に集中義務が廃止される場合にも取引所外取引にも同等の透明性要件を課すことを求めた。 今後(2年目)は、これらの特定された選好を、採択されたMiFIDの内容と比較することで、各アクターが持つ選好の達成度を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の進捗がやや遅れている理由は、新型コロナウイルス蔓延の影響により、資料調査の実施を一部見合わせたため、特に証券部門で活動する金融機関に関するデータについて、当初の計画通りに資料収集が進まなかったことである。他方、金融機関等が自らの選好を提示する「ポジション・ペーパー」の収集や先行研究の検討については、ほぼ予定通り行うことができた。その成果の一部は、研究会等で発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当初の予定通り、EU諸機関が公表する資料を収集し、金融機関が持つ選好と制度上の結果とを比較検討する。同時に、当初の計画から遅れている証券市場や金融機関に関するデータの収集について、新型コロナの蔓延状況をみつつ、9月までに行うことを目指す。これらの成果については、秋の学会で報告し、学術論文として公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、新型コロナウイルスの蔓延の影響により、資料調査の実施を一部見合わせたため、旅費・宿泊費、複写費等に関する支出が少なくなったこと、および、海外発注図書の納入に一部遅延が生じたことである。 2021年度の使用計画については、当初の予定通り資料(欧州の証券市場に関する図書、および、EUの政治経済関係に関する図書)の収集と学会報告のために助成金を利用する。加えて、2020年度に行えなかった資料調査を9月までに実施し、その分の予算は「次年度使用額」から充当する。
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備考 |
研究成果の一部を以下の研究会にて報告した。 ・ヨーロッパ資本市場研究会(報告タイトル「EUにおける株式取引の内部化と金融商品市場指令(MiFID)」、2020年10月19日) ・立教大学研究プロジェクト「コロナ危機とEU統合の再検討」(報告タイトル「EUにおける金融商品市場指令(MiFID)の政治経済学―ダークプールの規制上の起源―」、2020年11月20日)
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