2020年度は研究計画に従い、手元資金を研究開発投資に投入する企業行動を標準的な成長理論理論のモデルに導入した。既存理論では企業の利潤のキャッシュフローは全て株主への配当に回ることが想定されているが、そうした内部資金のうちどれだけを配当に回し、どれだけを研究開発投資に回すのか、更に外部資金を株式発行によりどの程度調達するのかを意思決定する企業行動を分析した。研究開発投資を行う主体がリーダー企業の財を模倣するフォロワー企業である場合、研究開発投資を活発にするためにはそうしたフォロワー企業の手元資金、すなわち利潤を増やす政策が有効であることを明らかにした。この結果は、既存特許の保護を強化する政策はフォロワー企業の利潤を減らすために研究開発投資を抑制してしまう効果があることを示唆する。一方で、特許保護の強化はフォロワー企業が研究開発投資に成功した場合の利潤を増やすため、素朴なシュンペーター効果により研究開発投資への意欲が高まるという正の効果も存在する。その結果、前者の負の効果と後者の正の効果どちらが支配的かによってトータルの効果が決定されることを明らかにした。 またこのフレームワークを用いて、企業間交渉によって決定される特許ライセンス料が経済成長にどのような影響を与えるかを分析した。企業が内部資金を研究開発投資に使用しない場合は、暴利な特許ライセンス料が経済成長率を最大にする一方で、企業が内部資金を研究開発投資に使用し、かつ外部資金の調達が困難なケースにおいては中程度の特許ライセンス料が成長にとって望ましいことを明らかにした。
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