本研究の目的は、公的教育支出の配分が世代間階層移動に与える影響を理論的に明らかにすることである。 先行研究において、世代間階層移動が少ない国では、暴動やストライキ、反政府デモなど政治的不安定を経験しやすいことが実証的に明らかにされている。また、所得格差が大きい国ほど、世代間階層移動は減少することも示されている。まとめると、所得格差の拡大は世代間階層移動を妨げ、政治的不安定性を高めることになる。したがって、所得格差が拡大した場合を考えると、世代間階層移動を促す政策を行うことが政府にとって重要となる。 本研究では,子どもの能力に基づいて公的教育支出を配分する政策を考えた。この政策はいわゆる奨学金のような資金援助である。能力の高い子どもへの資金援助は、子どもの学習への意欲や親の学校教育への関心を高めることにより義務教育全体の質を高めることが実証研究で明らかにされている。本研究によって、所得格差が拡大するにつれ、能力の高い子どもに多くの公的教育支出を配分する政策が世代間階層移動を促すために必要となることがわかった。この研究成果は、所得格差の拡大と世代間階層移動の減少を伴う国にとって、世代間階層移動を促すことで政治的安定性を高めるためには、能力の高い子どもへ多くの公的教育を支出することが重要であることを示している。 最終年度の2023年度では,得られた研究成果をまとめた論文が,自身の所属学部が発行する経済論集に掲載されることが決定した。
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