本研究は、公共財生産と貨幣供給の下での均衡資源配分と、それを実現する市場メカニズムの最適性や安定性について考察を行うものである。2022年度に定式化した、公共財生産と政府の財政収支を同時に考察する有限経済モデルについて、その動学化を行うことを目標に研究を推進した。動学モデルの完全な構築には至らなかったが、(1)世代重複モデル、および(2)フォン・ノイマン型多部門成長モデルの2つの動学モデルについて、生産を含む形での均衡存在やその最適性の検討を行い、公共財生産と貨幣発行の役割を導入可能な形に整理した。その成果は、英文専門誌および論文集書籍の一部として、複数の媒体にわたって公表されている。 また、これらの経済モデルの具体的な応用として、前年度に引き続き、医療・公衆衛生分野の問題に注目し、当該分野の専門家の協力も得ながら考察を行った。このモデルの大きな特徴は、公共財の生産・供給を公企業と私企業に分類している点であり、私企業にも公共財の個人別価格がリンダール税として割り当てられる。世代重複化したこのモデルの具体例として、公企業=政府の継続的な貨幣発行が、(私企業の利潤最大化行動を伴う)パレート最適な資源配分状態をサポートするような状況を考えることができる。今日の世界において、公企業あるいは財政の(巨額の)赤字と、私企業の(巨大な)利潤の、同時(累積)的存在は、顕著な事実であるといえる。本研究はこういった状況を分析する極めて重要な枠組みを提供するものである。
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