研究課題/領域番号 |
20K13463
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
周 雨霏 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (50823803)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ドイツ歴史学派 / W・ゾンバルト / 資本主義理解 / 受容史 |
研究実績の概要 |
2020年度は、パンデミックの影響により、予定していた海外での資料収集は断念せざるを得なくなったため、国内で入手できる文献を中心に分析作業を行った。特に重点を置いたのは、次の3点である。 まず、新たに公開されたゾンバルトのFerdinand Toennies, Edgar Salinなど同時代の社会科学者宛の書簡を手がかりにして、ゾンバルトを取り巻く思想的な局面と彼の資本主義理解に対する生涯史的・精神史的な再検討である。これに関する研究成果として、新刊のゾンバルト書簡集を取り上げる書評を発表した。 次に、下積み作業として、近代国家、資本主義、市民社会など「モデルネ」の諸命題が世紀転換期において東アジアで受容される条件に関する学問構造の視点からの包括的な検討である。その中で、これまで見落とされていた日本の史学科出身者とドイツ歴史学派の接点、とりわけ箕作元八や阿部秀助とG. Schmollerの人的繋がりを明らかにした。これは、当初想定していなかった新しい発見である。研究成果として、「日本におけるランケ史学の受容」と題する報告を行い、Methodenstreitが日本で引き起こした波紋として、政治・思想・経済の諸要因を相互に関連づける学際的な歴史研究のパラダイムが樹立される経緯に辿り着いた。原稿に修正を加えて、2021年夏頃出版される予定である。 また、河田嗣郎(1883-1942)を中心に、社会政策学者によるゾンバルト資本主義論の受容経緯を検討した。これに関する研究成果を一旦取りまとめ、ヨーロッパ日本研究協会第16回国際会議にパネル報告申請を行い、査読の末、無事アクセプトされた。新型コロナウイルスの影響で大会が一年延期になったため、2021年8月に報告を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画では、東アジアにおける資本主義をめぐる言説空間の中で、ヴェルナー・ゾンバルトの影響をまず明らかにするとしており、これに沿った形で学会報告、論文執筆をおこなっている。新型コロナウイルスの影響により予定変更を余儀なくされた面もあるが、研究は概ね予定通りに進んでいる。資料の入手などに影響が生じているものの、作業自体は、順調に進んでおり、さらに、当初予期していなかった新しい知見も見出している。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度も、コロナウイルス禍により、海外で資料収集の機会が得られるか不透明であるため、国内で収集できる資料の分析を優先して実施する。以下の2点を中心に研究を行う予定である。(1)ゾンバルトが説いた企業家特有の利得努力、計算のセンス、経済的合理主義など「資本主義の精神」のエレメントと戦前・戦中の株式会社論との関連を明らかにする。(2)執筆中の論文「Imagining “Capitalism” in the Early Twentieth Century Japan:Focusing on the Reception of Werner Sombart’s Capitalism Analysis」を完成し、査読誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に参加する予定だった二つの国際会議の内、一つがキャンセルされ、もう一つはオンラインで開催されることになったため、予定していた海外での文献収集も断念せざるをえなかった。出張旅費が予定していた額より大幅に少なくなったが、2021年度中に海外に渡航できる状況となった場合、海外旅費として使用する予定である。コロナウイルスの流行が収まらず、2021年度も海外渡航が不可能な場合には、さらにもう一年繰り越すこともあり得る。
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