研究課題/領域番号 |
20K13463
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
周 雨霏 帝京大学, 外国語学部, 講師 (50823803)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ドイツ経済思想 / 歴史学派 / ゾンバルト / 資本主義 / 日本経済思想史 |
研究実績の概要 |
本研究は、明治後期から昭和前期にかけての東アジアにおけるW. ゾンバルトの学説の受容史に焦点を当てる。この分析を通じて、東アジアにおける「資本主義」の概念の導入、定着、そして変化を明らかにすることを目指す。これまで、日本を除くアジア各国におけるドイツの経済思想の受容史はあまり議論されてこなかった。ここでは、中国や朝鮮で社会発展段階を論じた社会科学者も分析の対象とすることで、20世紀前半の東アジアにおける「資本主義」についての思想的な空間の全体像を再構築することを試みる。 上述した目的を達成するために、2022年度には以下の2つのアプローチで研究を進行した。 (1)W. ゾンバルトから強い影響を受けたと推測される特定の経済学者や社会科学者の資本主義理解についての調査。初めに、「資本主義的精神」(1910)の著者である河田嗣郎に注目し、明治末期に盛んになされた企業家精神をめぐる論争の背後にW. ゾンバルトの役割を明らかにした。この成果は、昨年欧州日本研究協会第16回国際大会での発表を基に、査読付きの論文としてまとめられ、公開された。 (2)「資本主義」の理解に関連し、経済形態のみならず、近代的政治制度への移行についての議論を検討した。この中で、「東洋的専制主義」について、明治時代から戦時中までの言論の構造を経済倫理と結びつける形で論じた。この成果も国際的な査読付き雑誌に論文として掲載された。 さらに、日本経済思想史研究と東アジア思想史研究の交錯に関する方法論的な報告も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度には、研究代表者の所属が変更となり、その結果として生じた勤務負担の増加により、いくつかの研究活動を中止または延期せざるを得なかった。そのため、予定していた研究活動が全て計画通りに進行しているわけではない。
しかしながら、研究会「日独近代化における〈国民文化〉の諸相」での発表を通じて、戦間期・戦時におけるゾンバルトの資本主義超克思想の影響について、また国際シンポジウム「The Future of Liberalism」での発表を通じて、歴史学派と中国の初期経済ナショナリズム思想との関連性について新たな視点を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の研究活動は、現時点で進行が可能と見込まれる以下の内容を中心に展開する予定である。 (1)戦間期・戦時の東アジアにおける経済統制思想とゾンバルトの資本主義超克論との関連性についての研究を推進する。これまで整理した史料に基づき、史料の解読を進める。現在の段階では、難波田春夫を中心に、『著作集』には収録されていない関連史料を収集している。解読に際しては、難波田が『三つの経済学』の原典(邦訳があったものの)の前半のみを読み、「理解的経済学」に対する独自の解釈を行い、その解釈に基づいて『国家と経済』をまとめたことが明らかとなった。その成果は今年度の欧州日本研究協会国際大会で発表(報告は既に採択)し、その後論文化を進める予定である。 (2)ゾンバルトを始めとするドイツ経済思想が初期の中国への流入に関する研究。昨年度のシンポジウムでの発表を基に、同時代の日本の経済思想の動向と関連付けて論文化を進行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、2021年度にドイツで史料調査を実施する計画を立てていた。しかしコロナ禍によって、残念ながらヨーロッパを訪問することができず、史料調査を実現できなかった。 2021年度に実施できなかった史料調査は、今年度に行う予定である。
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