本研究は、W. ゾンバルトの資本主義論に焦点を当て、20世紀前半において、帝国日本が中心とする東アジアの社会科学におけるゾンバルト学説の受容史を手がかりにして、「資本主義」をめぐる思想空間が近代東アジアでいかに形成されたのかを明らかにすることを目的としている。上述した目的を達成するために、主要な論者の思想と活動に対する分析を中心に研究活動を展開している。 2023年度の研究活動は次のとおりである。 1. 帝国日本の学知形成において重要な役割を果たした外地の経済学者についても検討する必要があるという認識に基づき、京城帝国大学法文学部の経済学者たちも視野に入れた。中でも、とりわけアジア社会の資本主義移行に関して精力的に論じた森谷克己を中心に、京城帝大における社会経済史研究を取り上げた。10月には日本経済思想史学会例会(慶應義塾大学)においてこれに基づく報告を行った。またその成果は2025年度中に論文(論文集に収録)として刊行される予定である。 2. 令和6年5月の日本経済思想史学会第35回大会(同志社大学)において、「戦前の関西における社会政策学:河田嗣郎の思想と活動」と題する報告を行い、昨年の国際会議で報告した内容に基づいて、ゾンバルトの影響を深く受けていた河田嗣郎の資本主義論を同時代の関西の社会政策学者と比較しながら再検討する予定である。 この研究活動を通じて、まず、東アジアにおけるW. ゾンバルトの理論が資本主義精神/企業家精神、経済ナショナリズム、および社会経済学の学問的正当性という三つの領域で受容され、展開されたことが確認される。さらに、ゾンバルトが提示した資本主義成立の条件が、日本の近代化に関する言説に重要な影響を与え、この影響は朝鮮半島を含むアジア各地の資本主義論にも及んでいたことが示唆された。
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