研究課題/領域番号 |
20K13466
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
齋藤 幸平 大阪市立大学, 大学院経済学研究科, 准教授 (80803684)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | マルクス / 脱成長 / グリーンニューディール / 人新世 / 気候変動 / MEGA / コモン / コミュニズム |
研究実績の概要 |
グリーンニューディールについてのロバート・ポリンらの言説を仔細に検討し、欧米における気候ケインズ主義が目指している「グレート・リセット」の内容を整理した。その際には、緑の経済成長の前提となる経済成長と環境負荷(二酸化炭素排出量)のデカップリングの実現可能性を吟味することを意識した。そのために、ティム・ジャクソンやピーター・A・ヴィクターといった脱成長派のデカップリング批判を積極的に取り上げ、デカップリングの効果が経済成長を前提とする社会システムのもとでは、リバウンド効果によって、気候変動を防ぐほどのものにはならないことを確認した。 さらに、トーマス・ヴィートマンらの「マテリアル・フットプリント」の研究やジェイソン・ヒッケルやアルフ・ホアンボーによる「生態学的不等価交換」の議論を参照することで、グローバルノースとグローバルサウスにおける労働や資源の不均等な蓄積が、先進国のデカップリングの背景に潜んでいることを論じた。そのような状況下でのグリーンニューディールによっては、経済格差が拡大するのみならず、資源やエネルギーをめぐっての生態学的帝国主義が強化される危険性を明らかにした。 また、デカップリングが期待されている効果をもたらさない場合には、気候危機への対応策として、ジオエンジニアリングやCCSのような問題含みの技術が採用されることの危険性を、マルクスの技術批判を用いて批判した。 そのうえで、脱成長という立場から、MEGAと呼ばれる新全集を用いて、晩期マルクスの理論的到達点を再検討し、自然科学と非西欧社会の研究を通じて、マルクスのポスト資本主義のビジョンが「環境社会主義」にとどまらず「脱成長コミュニズム」へと深化したことを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
この一年ほどでカーボンニュートラルをめぐる議論が大きく活性化したことからも刺激を受け、グリーンニューディールや脱成長をめぐる議論を比較検討し、それを晩期マルクスの思想につなげるところまで一気に進展した。そして、その研究成果を『人新世の「資本論」』(集英社新書)という形で、一般向けの内容で出版することもできたため。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、この一年間の研究成果を踏まえ、『人新世の「資本論」』の議論をより学術的な観点から、とりわけマルクスの環境思想として展開していく予定である。そして、その成果を英語の単著として完成させることを目指す。そのために、引き続き、近年の脱成長についての研究を摂取するとともに、マルクスのポスト資本主義論を「脱成長コミュニズム」として、より精緻に展開すべく、モルガンやコヴァレフスキーについての抜粋ノートを検討することとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため出張などが国内も含め、ほとんどできなくなったため。コロナ禍が収まり次第、ドイツでの資料収集を行うことにしたい。
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