研究課題/領域番号 |
20K13466
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
齋藤 幸平 大阪市立大学, 大学院経済学研究科, 准教授 (80803684)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | マルクス / 脱成長 / 人新世 / 資本新世 / 気候危機 / コミュニズム / ルカーチ / 一元論 |
研究実績の概要 |
この1年間で、脱成長をめぐる状況は大きく変わりつつある。これまで脱成長は理論的にも、実践的にも人気が出ることがほぼあり得ないと考えられてきた。ところが、最近では、第2次サンチェス内閣で消費問題相を務めている統一左翼代表のアルベルト・ガルソンが、脱成長と環境社会主義を合わせたビジョンをもとにして、スペイン社会のあり方を変えていく必要性を唱え、大きな論争を生んだ。また、国連の気候変動をめぐる国際パネルが2022年2月と4月に公開した報告書においても、脱成長が度々言及されるようになり、気候変動問題への対処としての一つの学術的・政策的アプローチとして認知されるようになってきている。さらには、Nature誌においても、『成長の限界』半世紀という機会に、「緑の成長」と「脱成長」をめぐる立場の違いがeditorialで紹介されていることも重要な変化である。 そのような変化を牽引するヨルゴス・カリスやジェイソン・ヒッケルといった脱成長派の躍進を前にして、マルクス派のなかでも脱成長と対話をするような姿勢が出てきている。例えば、これまで脱成長に批判的な見解をとっていたミシェル・レヴィも、カリスとの共著論文において、”ecosocialist degrowth"の必要性を説くようになっている。 その結果として、私自身も、この研究プロジェクトを通じて、GNDよりも、脱成長へと立場を大きく転換することになった。そして、この2年間私が進めてきた晩期マルクスの視点に依拠する「脱成長コミュニズム」の議論が世界的にも求められるようになっていることを考慮し、ケンブリッジ大学出版から単著の書籍を2022年に刊行することにした。コロナ禍のためドイツでの調査などは実現できなかったが、その時間を執筆にあて、原稿を完成することができたのは大きな成果であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ケンブリッジ大学出版から刊行予定の"Marx in the Anthropocene: Towards the Idea of Degrowth Communism"の原稿を年度末に完成させ、出版社に送付することができた。これにより今回の科研費で一つの最終目的としていた書籍刊行が、予定よりも早く2022年度内に実現できることがほぼ確実となった。 内容としても、『人新世の「資本論」』(集英社)をマルクス研究やポスト資本主義論としてより精緻に展開することができ、新しい問題提起を国際的に発信することが可能になる。また、2020年度に研究成果として刊行した『人新世の「資本論」』は45万部を超え、韓国語に翻訳され、刊行された。中国語、英語、台湾語、スペイン語も刊行に向けて準備中である。さらに、アジア・ベストブックアワードを受賞し、国際的に評価されている。 また、ルカーチ・ジェルジュの『歴史と階級意識』についての論文もNew German Critique誌に査読論文として掲載されることが決まった。該当論文は、2023年に歴史と階級意識100周年の記念号に刊行される予定である。
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今後の研究の推進方策 |
まず、2022年度はケンブリッジ大学出版から刊行予定の単著の校正作業に注力する。校正作業の過程でいくつか、追加で参照する必要のある議論がすでにでてきているため、それらについての見解を取りまとめる作業も必要になる。その上で、刊行後には、単著の成果を広く発信するために、今年度は国際学会などでも広く発信していく予定である。 また、今年もいくつか重要な脱成長派の書籍や論文が刊行予定であるため、それらを踏まえながら、経済成長へと依存しない社会への転換を実行するための方法、ならびに、そのような社会が重視すべき新たな価値観についての検討を行う。 その上で、プロジェクトの最終年度の仕上げとして、グリーンニューディール、脱成長、SDGsをめぐる議論や政策、社会運動を包括的に検討する論考を完成させるつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍が長引いたために、2021年度に行う予定だった海外出張と調査が実施できなかったため。代わりに、書籍購入に研究費を用い、英語での単著執筆に時間をあてた。英語の校正費用として人件費を計上する予定である。また、2022年度は刊行した書籍をベースにして、国際学会などでの発表を行う予定である。
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