最終年度には、これまでの脱成長とグリーン・ニュー・ディールという2つのオルタナティブをめぐる比較検討の成果を踏まえて、マルクスの思想との接合を体系的かつ学術的な形で実現することができた。具体的には、これまでの検討を通じて、気候危機の複合的な次元(植民地支配、ジェンダー、階級)を考慮する場合には、グリーン・ニュー・ディールよりも、脱成長が追求されるべきであることが明らかとなった。そのうえで、これまで脱成長と相容れないと考えられてきたマルクスのコミュニズム論を人新世の時代にアップデートする必要があったのである。その研究成果は、2023年2月にケンブリッジ大学出版からMarx in the Anthropocene: Towards the Idea of Degrowth Communismという形でまとめることができた。本書では、最初の2年間の成果であるルカーチの一元論をめぐる批判や加速主義の問題点などをまとめるとともに、マルクスの抜粋ノート研究を手がかりとして、「物質代謝の亀裂metabolic rift」の概念をより体系的に展開するとともに、最晩年の「脱成長コミュニズム」の姿を具体的に明らかにした。現段階(2023年5月)で英国「ガーディアン紙」などを筆頭に、多くの肯定的な書評が公開されている。 また、一般向けにも、コミュニズム論の入門として『ゼロからの『資本論』』(NHK新書、2023年)を刊行し、脱成長とコミュニズムがなぜ親和的であるかを示した。これによって、気候危機の時代における資本主義のオルタナティブをある程度まとまった形で示すことができたのではないかと考えている。
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