研究課題/領域番号 |
20K13469
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
柳 貴英 京都大学, 経済学研究科, 講師 (30754832)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 計量経済学 / ミクロ計量経済学 / 統計的因果推論 / パネルデータ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,原因変数に内生性と動学的な依存性の両方が疑われる実証分析のための統計的因果推論アプローチを開発することである.特に,本研究では,そのような状況において,経済学の重要な因果パラメータである限界介入効果や局所平均介入効果などを識別・推定するための方法を開発することに取り組んでいる. この目的を達成するために,2020年度には,つぎの3点の研究計画に取り組んだ:(A)本研究に関連する先行研究のレビュー;(B)原因変数の内生性と動学的な依存性の両方を許容した統計的因果推論モデルの構築;(C)因果パラメータの識別・推定方法の開発. 研究計画(A)については,原因変数の内生性に対処した統計的因果推論アプローチに関する先行研究と動学的パネルデータ分析に関する先行研究のレビューを実施した.具体的には,査読・公刊済み論文および最新のプレプリントの調査,国際学会へのオンライン参加を通じて,本研究に関連する先行研究のレビューを行った. 続いて,先行研究のレビューで得た情報をもとに,研究計画(B)および(C)に取り組んだ.研究計画調書において詳述したとおり,本研究における統計的因果推論モデルの構築と因果パラメータの識別・推定方法の開発においては,動学的パネルデータモデルにおける固定効果に起因する付随パラメータ問題を解決する方法の検討が重要となる.この付随パラメータ問題をいかに解決するかを検討するために,2020年度の本研究のためのエフォートの大部分を使用した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度には研究計画(A)が完了し,研究計画(B)および(C)にも取り組んだ.しかし,2020年度内に研究計画(B)および(C)を完了することは叶わなかった. その理由は,本研究では原因変数に影響する固定効果と結果変数に影響する固定効果のそれぞれから生じる付随パラメータ問題を解決しなければならない点にある.原因変数に影響する固定効果から生じる付随パラメータ問題は,動学的パネルデータ分析のための既存結果を拡張することで解決できる見通しが立っている.一方,結果変数に影響する固定効果から生じる付随パラメータ問題は,現実的にはかなり強い制約を置かないかぎり,解決することは容易ではないと現時点では考えている.具体的には,結果変数と固定効果は一般に非線形な関係性にあると考えられるが,一般的な非線形モデルにおける付随パラメータ問題の解決方法を開発することは容易ではない. このことを原因として,2020年度内に研究計画(B)および(C)を完了することは叶わなかった.そのため,現在までの進捗状況は当初よりもやや遅れているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に引き続き,2021年度以降も研究計画(B)および(C)に取り組む.このためには,2020年度内にレビューが完了した先行研究にくわえて,パネルデータ分析に関する広範な先行研究を再調査する必要があると考えている.2021年度前半には,このような先行研究のレビューを実施する予定である. 2021年度後半には,レビュー結果をもとに,結果変数に非線形に影響する固定効果から生じる付随パラメータ問題を解決し,限界介入効果や局所平均介入効果などの因果パラメータの識別・推定方法を開発することを目標とする. ただし,結果変数と非線形な関係性にある固定効果から生じる付随パラメータ問題を解決することは難度の高い問題であるため,2021年度内に当該問題を解決することができない可能性もある.その場合には,現実的にはかなり強い制約であるものの理論的には扱いやすい制約である,結果変数と固定効果の線形性を仮定したもとでの因果パラメータの識別・推定方法の開発に取り組むことも検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は,新型コロナウイルスの影響のために,国内外の研究集会が数多くキャンセルまたはオンライン開催に変更された影響として,旅費使用が生じなかったためである. 国内外の研究集会の多くは,2021年度もキャンセルまたはオンライン開催となることが予想されるため,この次年度使用額および翌年度分として請求した助成金は,研究計画を遂行するための物品費として主に使用される予定である.
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