研究課題/領域番号 |
20K13471
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
早川 仁 北海道大学, 公共政策学連携研究部, 准教授 (70708578)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 貨幣供給 / 資産バブル / COVID19 |
研究実績の概要 |
COVID19によるパンデミックの影響と財政・金融政策の効果を議論すべく、研究計画の方向性に変更を加えた。本研究は、当初、資産バブルの生成メカニズムと帰結の解明を中核に据え、資産バブル生起・崩壊との関連において経済発展の動態および各局面における金融政策の役割について理論分析を行うことを目的として計画した。とくに、日本の1980年代後半における資産バブルの発生を、それ1950-60年代の高度成長との関連において理論的に把握することを一つの応用における目的として設定した。モデルの特色は、貨幣とその流通を明示的に導入することにより、貨幣供給量の意義とその影響についての分析を可能とするものである。このようなモデルの特徴は、COVID19への対応として行われている各種給付金や金融政策を通じた貨幣供給量の増大の影響を理解するうえでも有用であり、そのような分析が喫緊の課題である。これを踏まえ、COVID19への対応を通じた貨幣供給量の増大の帰結について含意を与えることを主目的として分析の組み替えを行った。すなわち、当初の研究計画においては貨幣供給の増大と資産バブル発生の関連を明らかにすることに重点があったが、これを修正し、貨幣供給の増大がより一般にもたらしうる影響について分析を与える。資産バブルの発生は、生じうる現象の一つと位置づけられる。このような修正は、構築を進めていた理論モデルの中核に影響を与えるものではなく、モデル分析の現実的妥当性を広げると位置づけられ、当初の研究計画の趣旨に沿ったものと考える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、制約的な選好のクラスにおいて予備的分析を進めてきた。目的は、理論分析の帰結について洞察を得ること、モデル設定についての妥当性・整合性を検証し、改善することにある。分析において、貨幣的均衡の存在条件の導出に成功した。それら条件のもと、貨幣の非中立性ならびに貨幣供給の産業の高度化における意義を示した。じっさい、日本の1950-60年代に典型的に見られるように、産業の高度化においては貨幣供給の増大が観察される。既存の貨幣モデルはその論理的関係を示すことができていなかったが、本研究の分析は最適貨幣供給を特徴づけ、産業の高度化における貨幣供給のある種の必要性を示すことに成功した。また、貨幣供給の過剰において、資産バブルまた“歪んだ成長”の発生を明らかにした。資産バブルと歪んだ成長における一つの論点は、両現象が併存するか否かであるが、採用している制約的な選好のクラスにおいては、併存しないことが帰結される。
|
今後の研究の推進方策 |
予備的分析において採用した制約的な選好のクラスのもとでは、すでに十分な分析を行った。そこで得られた結論の頑健性を検証すべく、より一般の選好のクラスにおける分析を行うことを計画する。とくに、資産バブルと歪んだ成長の併存可能性については、一般的な可能性についての理解は不十分であり、検証される必要がある。また、選好に関する制約が強すぎるために、資産バブルの発生条件についても十分な理解が得られておらず、検証を必要とする。これらを踏まえ、第二年度は、まず選好の一般化に取り組む。すでに部分的に進めているが、より一般の選好のクラスを採用することにより、モデル設定について必ずしも軽微でない修正が必要であることが明らかになった。引き続き修正方法について検討を進める。第二年度中にモデル設定の修正を完了し、論文としてまとめる予定である。これまでの分析では貨幣を外生的としていたが、銀行部門を通じた内生的貨幣供給の分析について、第三年度以降にかけて行う予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
学会報告などによる旅費の使用が想定より少なかったため。次年度においてもリモートにおいて開催される学会があることから、旅費の使用は少ないことが見込まれる。他方、在宅勤務への移行にともない必要とされる各種機材への支出が当初の想定より増加しており、それらに使用することを計画する。
|