本年度もパンデミックの社会的影響の大きさを鑑み、コロナ感染対策と経済活動に関する研究を進めた。数理感染症研究者との共同研究では、ワクチン供給に限りがあり、様々なグループ別の致死率や接触マトリックス等の異質性が存在する状況で最適なワクチン配分戦略についての論文を執筆した。別の研究では感染症で代表的なSIRモデルを拡張し、人々が感染状況に応じて自主的に行動を変化させる新しいコンパートメントモデルを構築した。このモデルを使い、世界各国で見られた複数回にわたる感染の波の発生を理論的に説明した。当該モデルを使うことで行動変容を必要とする政策決定を改善できる可能性があることがわかった。また、コロナ禍における感染対策と経済活動の両立について短期的な視点だけではなく、2022年末までの中期的なスパンでも国際比較を行った。ロックダウン等の行動制限による感染対策と経済活動は単純なトレードオフの関係にあるわけではなく、地域ごとのばらつきが大きいことがわかった。さらに数ヶ月の単位と3年という単位でも関係性が変わってくることが示唆された。その他にも東京五輪の開催が日本国内での感染状況に与えた影響やコロナ禍での自殺者数についての研究を進めた。
本来の科研費テーマであった貿易とサプライチェーンに関しても研究を進めた。東京商工リサーチの企業間取引ネットワークデータと企業貿易データを分析し、パンデミックによる貿易急減ショックが、サプライチェーンを通じて川上のサプライヤーへも負の影響を与えたことを明らかにした。また2008年のリーマンショックと比較し、波及効果がそれほど大きくないことも明らかにした。その他に輸送業者の戦略的な価格設定を加味した貿易モデルを構築し、既存のモデルとの違いを分析した。
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