研究課題/領域番号 |
20K13477
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
松田 一茂 一橋大学, 大学院経済学研究科, 講師 (60867167)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | マクロ経済学 / 賃金格差 / 教育 |
研究実績の概要 |
テクノロジーの進化に伴い大卒の労働者の需要は高まる一方、高卒の労働者の雇用はロボットに置き換えられ需要は減っている。そのため、スキルプレミアムと呼ばれる大卒と高卒の賃金の差が拡大している。本研究では大学中退者を増やすことなく効果的に大卒者数を増やすような新しい奨学金体系を考え、その奨学金体系がスキルプレミアムにどのように影響を与えるかを調べた。 拡大している賃金格差に対して政府はどのように対応すべきかを明らかにした。具体的には、どのような給付型奨学金の体系が望ましいのかという問いに答えるために、大学の入学、中退、卒業が内生的に決定され、大卒者数が賃金格差に影響を与えるような一般均衡モデルを考えた。既存の論文では受給額が学年ごとに共通の奨学金の効果だけが考えられてきたが、本研究では学年ごとに受給額が異なる新しい奨学金体系を考えた。学年ごとに共通に奨学金の額を増やすと入学者も卒業者も増える一方、減らした場合にはどちらも減るため、入学者と卒業者の数に対して同じような効果しか与えない。この研究では、受給額を大学前半より後半の方を増やすことによって、既存の体系とは異なり、大学の中退者を減らす一方で大卒者を増やすことがわかった。結果として、この新しい奨学金体系では賃金格差を減らすこともわかった。さらに、この学年ごとに受給額が異なる新しい奨学金体系は社会厚生を最大化することもわかった。 同じモデルを用いて、オックスフォード大学のKarol Mazur氏との学生ローンの効果の共同研究も始めることもできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度である令和2年度では、当初の計画通りマクロモデルを構築し、高速性を備えたコンピュータ言語を用いて一般均衡を解き、学年ごとに受給額が異なる新しい奨学金体系の効果を分析できた。さらに、European Economic Reviewに論文を公表することができた。現在は、同じモデルを用いて、オックスフォード大学のKarol Mazur氏との学生ローンの効果の共同研究も始めている。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度では、モデルの仮定を緩めるとどのように最適な政策が変化するかを確認する。例えば現在のモデルでは大学在学中にどれくらい勉強するのかといった選択は入っていない。奨学金の体系を変更することで、勉強する努力を変化させる可能性もある。さらに、同じモデルを用いて学生ローンの効果を研究する。これらの研究をまとめた後で、モデルの修正や分析方法について研究代表者が在学していたプリンストン大学の教授からコメントをもらう。令和4年度では、国内外の研究者からアドバイスをもらう。Society for Economic DynamicsやEconometric Society、American Economic Associationなどの国際会議や国内外の大学のワークショップにおいて積極的に報告を行い、論文の質の向上を目指す。その後、英文論文校正をおこなったのち、本研究を国際学術誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
Macbook Proの購入が急遽必要となり、当初購入予定だったより高額のMac Proの購入を次年度まで見送ったため次年度使用額が生じた。次年度ではMac Proの購入を予定している。
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