研究課題
テクノロジーの進化に伴い大卒の労働者の需要は高まる一方、高卒の労働者の雇用はロボットに置き換えられ需要は減っている。そのため、スキルプレミアムと呼ばれる大卒と高卒の賃金の差が拡大している。初年度では大学中退者を増やすことなく効果的に大卒者数を増やすような新しい奨学金体系を考えた。受給額を大学前半より後半の方を増やすことによって、既存の体系とは異なり、大学の中退者を減らす一方で大卒者を増やすことがわかった。 結果として、この新しい奨学金体系では賃金格差を減らすこともわかった。さらに、この学年ごとに受給額が異なる新しい奨学金体系は社会厚生を最大化することもわかった。二年目は、同じモデルを用いてKarol Mazur氏と支払いが所得に依存する形で決定される「支払い所得依存型学生ローン」の効果を考える研究を行い、論文として形にすることができた。このローンの元では将来所得が低くなっても支払いを続けなくてはいけないリスクが減り、学生ローンを使って大学に入学する人も増加した結果、経済全体の大学進学者や賃金格差が減少した。当該年度である昨年度では、似たモデルを用いてスキルプレミアムが拡大する中で、格差是正のために大学への補助金か、累進所得税による直接的な再分配のどちらが望ましいのかを調べ、論文として形にした。大学の中退の効果を考えても大学への補助金が優れていることがわかった。直接的な再分配は一見格差を是正できるように思うが、所得が増えれば増えるほど払う税金が増えるため、教育を受けて所得を増やそうとするインセンティブがなくなり、大卒が減ってスキルプレミアムがかえって拡大することがわかった。大学への補助金は入学者を増やすので確かに中退者も増やすことになるが、それでもなおスキルプレミアム減少による格差是正が望ましいことがわかった。この研究は国際誌に採択された。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件)
Journal of Money, Credit and Banking
巻: - ページ: -
10.1111/jmcb.12989
Journal of Monetary Economics
巻: 132 ページ: 100~117
10.1016/j.jmoneco.2022.08.005