本研究の目的は、(1)わが国における研究開発補助金の経済的影響について波及効果を踏まえて定量的に評価すること、(2)望ましい研究開発補助金の配分について実証的に検証することである。 昨年度までの成果として、市場内の競合企業との関係を踏まえて企業が意思決定を行う経済学モデルを構築した上で、モデルに含まれるパラメータ(利潤関数のパラメータ、特に波及効果を捉える構造パラメータ)をデータから推定、その上でわが国の研究開発補助金のインパクトを評価するためのシミュレーション分析を行ってきたところである。分析では、研究開発活動の波及効果を踏まえて、現状の補助金が当該市場における企業群の研究開発活動をどの程度促進しているのか、それがどれほどイノベーションに繋がっているのか、という点を評価している。加えて、社会厚生の観点から企業だけでなく、消費者も含めた補助金の影響を定量化している。最終年度である2022年度はこれに加えて、補助金の配分方法が変化した場合にどのようなアウトカム(研究開発投資、イノベーション、社会厚生)が実現するのかを現在の状況と比較し、どのように補助金を配分するのが社会的に望ましいのかを定量的な指標に基づいた検証を行った。 本研究の特色は、研究開発活動の波及効果を明示的に組み入れた上で、研究開発補助金が補助金を直接受給した企業だけでなく、市場全体にどのような影響をもたらすのかを社会厚生を含めて定量化した点にある。本研究は、補助金を直接受給した企業に焦点を合わせていた先行研究と比して学術的独自性があり、また今後の科学技術イノベーション政策のあり方について民間部門への財政支援の観点からエビデンスを提供する点で政策的意義を有する。
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