研究課題/領域番号 |
20K13483
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
北村 友宏 神戸大学, 経済学研究科, 講師 (10822900)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 下水道 / 下水排除方式 / 確率的フロンティア分析 / メタフロンティア / 効率性 |
研究実績の概要 |
本研究では、日本の下水道事業者の効率性について、下水排除方式の違いに着目した実証研究を行う。下水排除方式には、雨水と汚水を同一の下水道管に流す合流式と、両者を別々の下水道管に流す分流式がある。ただし、合流式には、処理能力を超えた量の汚水が未処理のまま河川や海に放流されるという短所があり、これが水質汚濁や景観悪化などの問題を引き起こしている。そのため、日本では分流式への変更が推進されている。 そこで本研究では、日本の下水道事業者を対象として、下水排除方式の違いによる費用関数のグラフ上での位置や形状の違いを考慮しつつ、合流式下水道管を採用している事業者グループとそうでない事業者グループでは処理技術水準に違いがあるか、各グループの事業者は効率的な運営を行っているか、両事業者グループのうち、どちらが効率的かについて検証する。これにより、日本において推進されている、分流式下水道管の採用に経済的メリットが存在するかを明らかにすることが本研究の目的である。 1年目には、日本の下水道事業者の2016年度の個票データを用いて、下水道事業の、グラフ上での最小化費用を示す費用フロンティアを推定した。このとき、合流式下水道管を採用している事業者グループの費用フロンティアとそうでない事業者グループの費用フロンティア、そしてグループを総合した費用フロンティア(メタフロンティア)を導出した。この手法が、費用関数のグラフ上での位置の違いを考慮しつつ効率性評価を行うメタフロンティア分析である。 1年目の分析の結果、分流式下水管のみを採用している事業者グループのほうが合流式下水管を採用している事業者グループよりも費用面で効率的であること、すなわち分流式下水管のみを採用している事業者グループの最適費用が合流式下水管を採用している事業者グループの最適費用よりも小さいことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初、1年目には、合流式下水道管を採用している事業者グループとそうでない(分流式下水管のみを採用している)事業者グループを1つの標本に統合して分析を行い、2年目に費用関数のグラフ上での位置の違いを考慮しつつ効率性評価を行うメタフロンティア分析を行うこととしていた。ところが、前述のメタフロンティア分析を1年目に前倒しして実行することができた。そして、1年目の成果をまとめた論文も、学術雑誌に掲載されている。 なお、1年目は、2016年度のデータを用いた横断面分析を行ったが、下水道事業者の2001年度から2017年度までのパネルデータの構築も完了しており、2年目にはパネルデータ分析が実行できる状態となっている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、日本の下水道事業者の2001年度から2017年度のパネルデータを用い、メタフロンティア分析により、合流式下水道管を採用している事業者グループの費用フロンティアとそうでない事業者グループの費用フロンティア、そしてグループを総合した費用フロンティア(メタフロンティア)を導出する。次にフロンティアの導出結果を用いて、費用効率性を各事業者について計算し、費用を最小化している水準に近い値であるかを確認する。これにより、各事業者が効率的な運営を行っているかを明らかにする。また、各事業者・時点における実際にかかった費用の、グループを総合した最小化費用からの離れ具合を表す技術ギャップ率も計算し、この指標が最適な水準に近いのはどちらのグループであるかを確認することにより、合流式下水道管を採用している事業者グループとそうでない事業者グループではどちらが効率的であるかを明らかにする。この分析で得られた結果を、1年目に行った2016年度のみのデータを用いた横断面分析の結果と比較し、違いが生じているかを確認する。 研究成果は、学会などで報告し、得られたコメントを、必要に応じて本研究に反映させる。さらに、英語論文を執筆し、学術雑誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外のワークショップに参加して研究報告を行うことや、イギリスのラフバラー大学(Loughborough University)に出張し、上下水道の効率性分析の専門家であり同大学に所属されているDavid Saal教授との打ち合わせを行うことを前提として外国旅費を予算に計上していた。しかしながら、新型コロナウイルスの影響が長期化し、2020年度は海外出張が不可能となったため、外国旅費を執行することができなかった。そのため、次年度使用額が生じた。 2021年度においても外国旅費を全く執行できない可能性が濃厚であるが、国内においてはごく一部の学会やワークショップが対面開催される見込みである。こうした国内の対面開催の学会やワークショップに可能な限り参加し、研究報告や情報収集を行う予定で、その際に「次年度使用額」を国内旅費や学会参加費として使用することを計画している。さらに、英語論文を複数本執筆して英文校正を業者に依頼し、その際に人件費・謝金としても「次年度使用額」を使用する計画である。
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